世界中の製薬会社が次々と撤退「認知症の薬」はやっぱり作れないのか

25年間、数千億円かけても全部失敗
週刊現代 プロフィール

困難はほかにもある。薬の効果を厳密に評価するのも難しいのだ。

「認知症の症状を評価するのに、ADAS cog、SIBといった指標があります。しかし、これらは、医師や介護者が患者と対面でコミュニケーションしてスコアをつけるもの。

体温測定のように厳密には数値化しにくい。薬が効いているか否かの判断が難しくなります」(前出・小野氏)

日々の生活を成り立たせている人間の脳は極めて入り組んだメカニズムを持っている。そこに深く関わる認知症もまた、実に複雑な病気だ。それゆえ、ほかの病気に比べて、動物実験も難しい。

かつてエーザイでアリセプトを開発した、同志社大学脳科学研究科の杉本八郎教授が語る。

「実験に使う『モデルマウス』は遺伝子組み換えをして作りますが、これは『家族性アルツハイマー』の遺伝子を使っています。技術的にそれを使わざるを得ない。

しかし、治療薬が対象とし、人間のアルツハイマーの95%を占めるのは『孤発性アルツハイマー』です。両者は、厳密に言うと異なっている。そのため、動物実験で成功した薬を人に投与しても、期待される結果が得られないことがあるのです」

Photo by iStock

根本が間違っているのか

その複雑さゆえ、様々な科学者が議論を繰り広げ、現在通用している仮説が明日にはひっくり返る可能性すらある。勤医協中央病院名誉院長の伊古田俊夫氏が言う。

「Aβが原因であるという仮説も、一部からは疑問の声が上がっている。Aβが溜まるという現象は確実に存在するのですが、それは結果にすぎず、実は原因じゃないのではないか、実はまったく違う仕組みでアルツハイマーが発症しているのではないか、という考え方もあります」

実際、リリー社の治験失敗後、世界的な科学雑誌『ネイチャー』では、Aβが原因であるとする「アミロイド・セオリー」に反対するテキサス大学のジョージ・ペリー氏らの声が紹介された。

 

いまだ混沌としている認知症をめぐる研究―前出の佐藤氏が今後の認知症薬の開発について見通しを語る。

「現在、アメリカのバイオジェンという会社が、Aβを取り除くタイプのアデュカヌマブという薬を作っており、それが『希望の光』だとも言われています。ただ、Aβを取り除いたり、作らせないようにしたりするアプローチは失敗例も多く、まだとうてい楽観はできません。

最近では、予防薬を作るという議論もありますが、コストが莫大になる。たとえ実現しても、問題は山積みです」

認知症とは、脳の老化が早期に進行してしまう病だ。それを根治するとは、つまり老化を阻止するということ。それは、人間の限界を超えたことなのかもしれない。

「週刊現代」2017年9月9日号より