5人死傷・岐阜の老健施設「ひどすぎた地元の評判」

遺族には十分な説明さえなく
週刊現代 プロフィール

監視カメラは故障していた

やがて高橋は自己都合退職の扱いで施設を退職した。だが、同僚たちが驚いたのは、その後の高橋の行動だ。

退職からほどなく、高橋が転職したのは、同じ市内の老健施設「それいゆ」。またしても介護職員となったのだ。

そこから今回の事件は起こった。被害者はいずれも高橋が勤務していた2階の認知症患者のフロアにいた。

門谷富雄さん(80歳)は7月31日、喉に食べ物が詰まった状態で見つかり死亡。8月6日には石本きん子さん(93歳)が頭を強打した状態で見つかり、翌日死亡。

8月13日に死亡した中江幸子さん(87歳)は、肋骨が肺に刺さった外傷性血気胸で死亡している。体調に異変をきたした前日、家族は中江さんの首や胸に赤いあざの痕があるのに気づいた。

中江さんの長男(60代)が語る。

「病院からのちゃんとした説明もありません。22日の昼頃に、理事長たちが『お参りさせてください』とお線香を上げに来ましたけど、10分くらいですぐ帰りました。お参りに来るのも遅いと思います。

母が『それいゆ』に入所するのは今回が初めてではなかったんですが、まさかこんなことになるとは……。職員の高橋?スタッフは入れ替わり立ち替わりしているから、誰かわかりませんよ」

 

職員が入れ替わり立ち替わり――。実際、「それいゆ」の地元での評判はあまり芳しくない。

元従業員がこう語る。

「人の出入りが激しいのは有名です。求人募集は常時といってもいい。人使いが特に荒いわけではないんですが、理事長から『君たちの代わりはいくらでもいるんだから』と言われたこともありますし、働く人の気持ちをないがしろにしている施設でしたね。給料もよくはなかった」

中江さんの死亡後も、8月15日に女性(91歳)の肋骨が折れ、16日には女性(93歳)に肺挫傷が見つかり、いずれも入院している。

家族を入所させていた60代男性が語る。

「人間扱いしてくれないんですよ。私の義父を『それいゆ』に入れていたんですが、ある日いつもの部屋に行ったらいない。

たしかに義父は少しボケがあったけれど、大部屋に移されて、GPSのタグまでつけられていた。何考えてんだ、と怒って別の病院に移しました」

施設近くに住む60代男性も言う。

「『あそこに入れると、認知症になって帰ってくる』と言われていますよ。近所のおばあちゃんも、亡くなってから体中にあざが見つかったこともあった。評判は悪いですよ」

皮肉なことに、他の施設は満床が多くなかなか入れないが、「それいゆ」は割とすんなり入れる、という意味で人気があったという。

折茂謙一理事長の古くからの友人が語る。

「'97年設立の『それいゆ』は飛騨高山地方で最初の介護老健施設だったんです。デイサービスが大当たりして、多いときは1日に100人ほど受け入れていましたから、『それいゆ』建設時の借金は数年で返せたと理事長は言っていました。

経営する医療法人同仁会は病院も含めて、十数の施設を運営しています。理事長の奥さんがやり手で、住宅型有料老人ホームを3年前に開設するときは『飛騨高山を売りにしてネットで集めれば、一時金1500万円でもすぐに集まるわよ』と強気の発言をしていました。

けっきょく人が集まらず金額を下げたようですが、そういうお金の勘定はすごかったですね」

折茂理事長は「短期間で5例発生したことは問題で異常だ。警察に依頼して原因究明をしている」と語る。

捜査関係者は言う。

「警察の捜査はやや後手に回った。理由は不明だが監視カメラが故障していたり、施設の記録もきちんとしていない。

認知症の入所者同士でも暴行はあり得るし、不明な点は山ほどある。高橋からの本格的な聴取はこれからで、先に施設関係者から始める。長期化する可能性もある」

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高橋の母親に問うと、こう答えるのみだ。

「警察からは何もないし、むしろこちらが教えて欲しいくらいですよ」