飛騨高山では赤十字病院と並んで、知らぬ者はいない老健施設だ。ここで老人たちが次々と不審死したというので、町中が大騒ぎだ。疑惑の主の正体は――。
疑惑の男
自宅前には、「防犯カメラ作動中」「これ以上の取材にお答えする事はありません」と物々しい掲示がされている。高橋寛治(仮名・敬称略)は集まった報道陣にこう答えた。
――話すことは?
「不可能です。疲れているんです。こういうことがあって精神的に疲れない人はいないと思う」
――ご自身は関わっていないのですね?
「間違いないですよ。それでもういいですね」
岐阜県高山市の介護老人保健施設「それいゆ」で、7月末から半月で3人が死亡し、2人が負傷した。5人すべての介助に関わっていた職員は一人しかいない。30代男性の高橋だ。
岐阜県警は特別捜査本部を23日に設置、事件・事故の両面から捜査を開始した。疑惑の目は高橋に向けられているが、本人は一切の関与を否定している。
高橋の関与の有無は現時点ではまったく不明だ。だが、この高橋は、介護職員としての適性を著しく欠いていたようだ。「それいゆ」の前に高橋が勤務していた老健施設の関係者が語る。
「高橋君は'15年10月から、認知症患者のフロアで介護助手として勤務していました。介護の仕事は初めてのはずです。
介護の現場、とりわけ重度の認知症患者さんを相手にしていると、スムーズに物事が進まないことばかりです。そのときに、彼は感情をコントロールすることができなかった。
車椅子に乗った患者さんについているとき、突然怒り出して車椅子を蹴っ飛ばしたことが何度もありました。上司が目にして注意したこともありましたが、反省している様子もなかったですね」
高橋の突然の「激昂」は施設内でも有名だったという。そのため、3ヵ月の試用期間が経過しても、正社員採用は見送られた。関係者が続ける。
「'16年の8月頃のことです。その日彼は首から下を入浴介助する担当になっていました。これは大変な業務なのですが、彼はその日6人を担当したんです。
翌週、別の職員が同じ業務をやったとき、その日の利用者さんは4人だった。日によって人数がまちまちなのは当然です。
ところが、それに気づいた高橋君は『なんで俺は6人やったのに、あいつは4人なんだ!俺ばっかり!』と大声で叫んだ。みんな呆然としましたよ」
常にこんな調子だったので、職員たちは腫れ物に触るような扱いだった。
「問題行動が相次ぐので、夜勤のシフトからは外されていました。夜勤は基本的に1フロアを2人でまわすため、1人が休憩に入ると2時間ほどは1人で対応せねばならないからです。高橋君は何をするかわからないと言われていた」