シャリなし寿司は健康的か? 「糖質制限が日本人を救う」への疑問

科学らしく見えるものの危うさ
磯野 真穂 プロフィール

ご飯を食べると身体がけがれる?

ご飯を食べると身体がけがれた気がする
血糖値が上がるのが怖い
糖質を食べると許せない

これらはいずれも体型を気にする10代、20代の女性から発せられた言葉である。彼女たちの体型が肥満と縁遠いことは言うまでもない。

同じように、ネットでは寿司屋でシャリを残す女子の存在が物議を醸しだす。そこで紹介されるコメントは、「シャリを残すいちばん重要な理由が、体調管理です。シャリはお米ですから糖質がたっぷりと含まれているんです」、である。

そして先日、シャリなしの寿司を販売する回転寿司屋が登場した。もちろん病気でシャリを自由に食べられない人たちが、このメニューにより足を運べるならば素晴らしいことだろう。

しかしメニューの開発意図はそこにはない。記事によると女性を中心として健康意識の高い層に、糖質を気にせず食べてほしいメニューであるという。

 

日本は先進国では珍しく、若い女性のやせすぎが問題になる国である。体型を気にするやせ気味の女性が、「糖質は太る」、「糖質は身体に悪い」というメッセージを日々浴び続け、その結果、糖質に対して過度な恐怖感を抱くことの弊害はないのだろうか。

もともと糖尿病の治療に端を発した糖質制限は、このような形で、そことは遠く離れた人々にまで明らかな影響を及ぼしている。

ひるがえって、糖質制限派の主張は、とどまるどころかますます大胆になっている。日本人が糖質制限をすれば何千億もの医療費の削減になるであろうとか、低糖質のコメを開発すべきだとかいった主張までがなされるようになり、糖質制限に疑義を投げかける人々に対しては、科学を知らない、勉強不足と、容赦ない批判の言葉が投げかけられる。

しかし食は、人間の生き方や価値観、さらには環境との共生の在り方までが映し出される複合的なものである。人間の食のあり方を科学の言葉に還元し、そこからのみ絶対善を語ることは、そもそも人間の食の本質をないがしろにしているとは言えまいか。

現時点において、「人類の健康食」、「日本人を救う」というようなセンセーショナルな言明は、科学的事実の範疇を超えた、糖質制限のポスト・トゥルースということができるだろう。

「デブと病気に続く道」であるかのように語られる糖質摂取であるが、科学論文の過剰な一般化によって、その物語が作られている場合があることを覚えておきたい。

【参考文献】
1. 山田悟, 糖質制限の真実―日本人を救う革命的食事法ロカボのすべて. 2015: 幻冬舎.
2. Yamada, Y., et al., A Non-calorie-restricted Low-carbohydrate Diet is Effective as an Alternative Therapy for Patients with Type 2 Diabetes. Internal Medicine, 2014. 53(1): p. 13-19.
3. Hart, R.G., et al., Intracranial hemorrhage in atrial fibrillation patients during anticoagulation with warfarin or dabigatran: the RE-LY trial. Stroke, 2012. 43(6): p. 1511-7.
4. Nakamura, Y., et al., Low-carbohydrate diets and cardiovascular and total mortality in Japanese: a 29-year follow-up of NIPPON DATA80. Br J Nutr, 2014. 112(6): p. 916-24.

謝辞:本論考で参照した科学論文の解釈においては、日本医科大学衛生学公衆衛生学の可知悠子先生のご示唆をいただきました。