シャリなし寿司は健康的か? 「糖質制限が日本人を救う」への疑問

科学らしく見えるものの危うさ
磯野 真穂 プロフィール

その理由は、死亡率が高いとされた女性グループの平均年齢が、1980年の調査開始時点で57.2歳であることだ。仮にこれを1人の女性であるとすると、彼女は、大正12年生まれ、青春時代は第2次世界大戦を経験し、終戦の少し前に二十歳を迎えた計算となる。

第2次世界大戦後の日本の食事情は、戦前とは激変している。この時代を生き抜いた女性の健康状態を、全く異なるライフスタイルを持つ現代の女性にそのまま適応し、「糖質をたくさん取ると死亡率が上がりますよ」と注意喚起するのは少々無理があるといえるだろう。

 

さらに「たくさん糖質を摂ると死亡率が上がる」と言われれば、大胆な糖質カットが必要な気がしてしまう。しかしこの研究から導かれているのは、そこまで極端な話ではそもそもない。

元のデータを見ると、死亡率が低いとされたグループは、1日の摂取カロリーのおよそ5割を糖質から摂取している。それに対し、現代女性の1日の糖質摂取量は総カロリーの約6割だ。

つまり平均的な糖質摂取をしている女性は、いま食べている量からほんの少しだけ糖質をカットすれば、この値を達成できるし、そもそもこの研究からは、糖質摂取が6割前後だと死亡率が高いという結果は得られていない。

したがって先に指摘した時代の影響などを無視して言明するのであれば、平均的な糖質摂取をしている女性は何もする必要はない、というのがこの研究から言えることだ。

〔PHOTO〕iStock

加えて、この論文において死亡率が高いとされたグループは1日の7割以上のカロリーを糖質から摂っていることも注意したい。これだけの糖質を1日にとるためには、ざっと見積もってもご飯茶碗5杯以上5が必要だ。

これだけの糖質を日々摂取している女性がいまどれだけいるかがそもそも疑問であるが、この研究に従えば「あまり運動もせず1日ご飯茶碗5杯以上を食べる女性は少しご飯を減らしましょう」という提言のほうが適切と言えるだろう。

つまりこの研究は、1日の食事からほぼすべての糖質をカットしたり、一回の糖質摂取量を20グラムから40グラムに抑えたりといった、糖質制限派の医師が推奨する食事法の有効性を裏付けているわけではない。

論文が、大胆な糖質制限の有効性を主張する一般書に埋め込まれたことで、主張そのものに科学的裏付けがあるように見えていることがわかる。

51日の必要カロリーを1800kcalとし、ご飯茶碗1杯を140グラム=235kcalとして計算した