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オウム事件で喫した痛恨のミス…いま明かす公安「尾行のイロハ」

ある公安警察官の遺言 第7回
竹内 明 プロフィール

張り巡らされた「網」

中村琴美とはオウム真理教付属病院の元看護師で、平田信とともに逃亡しているとみられていた女だった。その中村が西武池袋線・清瀬駅近くに住む看護学校時代の友人A子宅に、預けていた50万円を取りに来るというのである。

「中村は平田の行方を掴むための重要人物だった。だから、俺たちは中村の友人達に網をかけて協力者をたくさん作っていたんだ。

中村は平田と逃げるための金に困って預けた50万円を取りに来るのだと確信した。完全秘匿で追尾すれば、平田のもとに行く。これは最大のチャンスだと思ったよ」(古川原)

 

2月15日の夕刻、中村は清瀬駅からバスに乗って、集合住宅に住むA子宅に姿を現した。古川原たちは息を潜めて、その様子を見守っていた。無論、A子の家の中には事前にマイクを仕掛け、中の会話は完全に把握できるようになっていた。

そんなことを中村が知る由もない。A子に西武池袋店で買ってきたぬいぐるみと育児用のビデオをプレゼントし、「今晩泊めて欲しい」と言った。

A子は宿泊を了承し、「明日の昼に、都営三田線白山駅に来てくれれば、預かっていた50万円を返す」と約束した。

白山はA子が勤務する病院の最寄り駅だった。昼休み時間帯に銀行で金をおろして返却する――。これは古川原がA子に事前に言い聞かせていた段取りだった。

古川原は上司にこう意見具申した。

「清瀬から尾行すると、ヅかれます(気付かれます)。カネは絶対に受け取りに来るはずだから、白山駅から尾行する態勢を組みましょう」

追われる者は、行動を開始した直後にもっとも警戒している。だから安心させてから尾行した方が成功する。これは古川原がこれまでの経験から得た知恵だった。

しかし、本部で指揮するキャリアの上司は、この進言を聞き入れようとしなかった。

「見失ったらどうするんだ。清瀬から秘匿追尾を行え」