ある知的障害をもつ女性が抱える、恋と育児にまつわる様々な問題

育てられない母親たち④
石井 光太 プロフィール

新たな男性と出会うが…

母親を失った美由紀は、保育園に通う娘の育児を1人でしなければならなくなった。

生活は立ち行かなくなった。美由紀は懸命に育児をしているつもりでも、保育園の送り迎えを忘れてしまったり、ご飯を何日も食べさせなかったりしてしまったのだ。本人も無自覚なところで、育児放棄が起きてしまったのである。

夫の亮にも大きな負担がかかった。美由紀が子育てをできないことから、亮が代わりにしなければならないことが増え、情緒不安定になっていったのだ。亮は娘を害虫のように嫌うようになり、時折パニックを起こして暴れたり、美由紀や娘に手を上げるようになったりした。

 

家庭の状態にいち早く気がついたのが、保育園だった。娘が通園しなくなったばかりか、連絡も取れないようになり、市に通報したのである。職員が家庭訪問に訪れた時、娘はやせ細り、全身が垢だらけになって、しゃべることさえできなかった。美由紀もDVによって全治2週間の怪我を負っていた。

その後、勤め先の上司などが間に入って2人は離婚することになった。亮に子育ては無理だという判断もあったのだろう。美由紀は娘を連れて母子生活支援施設に入居することになった。

母子生活支援施設にいる間、職員が家庭の世話をしてくれた。美由紀も支えてもらうことで少しずつ精神の安定を取りもどしてきた。

そんな中で、美由紀は新たな恋をする。ビデオレンタル店で、精神疾患を抱えた男性と知り合ったのである。男性は無職。親が所有するアパートで一人暮らしをしており、美由紀は娘を職員に預けてそこへ通い詰めるようになった。

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ある日、職員が美由紀のお腹が大きくなりはじめているのに気がついた。病院へ連れて行ったところ、妊娠が発覚した。どうするのかと問われ、美由紀は答えた。

「産む。彼と結婚する」

何を言っても意志を曲げることはなかった。そして、施設には黙って、精神疾患を抱えた男性と何も言わずに籍を入れてしまったのである。

夫婦となった2人が望む限り、結婚を妨げることはできない。だが、母子生活支援施設には夫婦で入ることは許されていない。母子のみでの入居が条件なのだ。とりあえず、施設の側は美由紀がお産を終えるまでは面倒を見ることにした。

数ヵ月後、美由紀は第2子となる女の子を出産した。ここで想定しなかったことが起こる。第2子の赤ん坊がダウン症であることがわかったのだ。

知的障害を持った母親が、精神疾患を抱える無職の男性と結婚して2児、しかも1人はダウン症の子を育てるのは難しい。

職員たちは何度も美由紀への説得を試み、ダウン症の第2子を乳児院へ預けさせることにした。