「死体格差」死に方から見えてくる現代社会の問題点

私たちもいつ巻き込まれるかわからない
西尾 元 プロフィール

誰かと一緒に生活していれば…

「糖尿病でも人は死ぬのか」と不思議に思う人がいるかもしれない。しかし、人は糖尿病で死ぬ。

糖尿病による合併症として、心筋梗塞や腎不全で亡くなることはよく知られているが、それだけではない。糖尿病を治療しないまま放置しておくと、この男性のように、昏睡状態となって死亡することがある。

男性は5年ほど前に失業していた。その後は、妻とも離婚して一人で生活していたという。発見された男性の部屋には、空になった炭酸飲料のペットボトルが山のように積まれていた。

部屋に残されていた近くのスーパーのレシートには、コーヒー牛乳1リットル、炭酸飲料2リットル、プリン4個パックと記されていた。部屋に残されていた残金は、4,000円ほどだったという。

この男性も誰かと一緒に生活していれば、体調が悪くなったときに病院に運ばれて治療を受けることができたかもしれない。そもそも失業していなければ、離婚することもなく、偏った食生活をして糖尿病になることもなかったのではないか、そう思わずにはいられなかった。

「糖尿病」といえば、昔は贅沢病とも呼ばれていた。値段の高い、高カロリーの食事を続けた人がかかる病気といったイメージだった。しかし、私たちのところに運ばれてくる人たちは、そうではない。

失業していたり、生活保護を受けていたりと、生活に余裕がない人が圧倒的に多い。安価でお腹を満たそうとすると、買い物をするとき、野菜や果物などを手に取ることは少ない。炭水化物ばかりの高カロリーの食事を続けた結果、糖尿病になったと思われる人が多い。

私たちのところに運ばれてくる人の中には、糖尿病と診断は受けていても、治療を受けていない人も多い。この男性も、診断は受けたものの、その後病院にかかっていなかった。病院で治療を受けるだけの経済的な余裕もなかったのだろうか。

 

「なんとかならなかったのか」

「法医学」と聞くと、テレビドラマのように、刑事と一緒に犯罪捜査している場面を思い浮かべる人が多いのかもしれない。法医学教室では、確かに、犯罪で亡くなった人の解剖も行っている。それは法医学教室の仕事として、重要な一部ではある。

しかし、私たちが扱う死体の中で、明らかに犯罪死体といえる死体の数は驚くほど少ない。実際には、先の男性のような、犯罪には関係のない死体を解剖することの方が圧倒的に多い。