人手不足の「業種格差」を放置すれば、日本経済ははてしなく停滞する

既存産業の「創造的破壊」が必要だ
竹中 正治 プロフィール

どこまでも目立つ労働需給のミスマッチ

すなわち、日本経済は長期的には、失業ではなく労働力不足が課題になるステージに移行しているのだ。

ただし労働力不足と言っても、職業による過不足のばらつきは大きい。その点を見るために、職業別の有効求人倍率と就職件数(月間)(厚生労働省、ハローワーク・データ)の分布を示したのが図2である。

図2

まず目につくのは一番左上に位置する「事務的職業」である(赤色)。就職件数で最大のボリュームゾーンであるが、有効求人倍率は0.4倍と最も低く、雇用需給は著しく余剰に傾斜している。

 

比較的大きなボリュームゾーンで有効求人倍率が2.0以上(水色)は、「専門的・技術的職業」、「サービスの職業」、「介護関係の職種」、「輸送・機械運転の職業」である(サービスの職業は介護、保健医療、飲食物調理、接客・給仕等からなり、近年追加された「介護関係職種」と重複する)。

また、民間の転職・求人仲介会社の求人倍率を見ると(DODA転職求人倍率レポート2017年7月)、業種別では「IT・通信系」が5.5倍と突出して高く、「サービス」2.8倍が次となっている。同データを職種別に見ると、「技術系(IT・通信)」6.9倍、「専門職」5.8倍と高く、「事務・アシスタント系」は0.22倍という低さだ。

こうした求人倍率の分布は、まさに現代のイノベーションが引き起こしている雇用需給構造のシフトを如実に表している。

すなわち、90年代から機械による代替が進んだ定型的な事務労働は、依然大きなボリュームゾーンではあるが、完全に雇用需給が余剰基調である。

一方、人手不足分野では、相対的に高付加価値の専門的・技術的職業と、対人的なサービスの職業(含む介護関係の職種)や輸送・機械運転の業務、ならびに運転や建設など現場業務への二極化が進行している。 

イノベーションに逆らうな

そして今日、AI・ロボット化による労働の代替は、製造業から非製造業全般へ、とりわけ専門的・技術的分野と各種の対人サービス、運転、建設の分野に進もうとしている。

こうしたイノベーションの波は、失業率が高い時には「雇用が失われる」とネガティブに受け止められやすいが、現下の人手不足の状況ならば「省力化・効率化」としてポジティブに受け止めることができる。むしろ、そのような変化への積極適応が経済全体で進まなければ、持続的な経済成長が不可能である局面に日本経済は至ったと言えるだろう。

どのような適応的変革が必要か。それは教育から法整備、業務慣行の見直しまで広範囲に及び、この小論で語るには余りあるが、社会・産業のイノベーションを語る時に象徴的なひとつの逸話を紹介しておこう。

英国では、ガソリンエンジンによる自動車の普及に先行して、19世紀に蒸気自動車が登場した時代がある。ところが、馬車から自動車への移行は、御者を含む馬車業界にとっては痛手である。

そうした保護主義的な意図を背景に、都市部での自動車の走行を安全なものにするという建前で、1865年に赤旗法(Red Flag Act)が制定された。この法律によって自動車は時速2マイルの速度制限を設けられ、かつ自動車の前方を赤旗を振った先導者が走ることを義務付けられたという。

驚くべきアンチ・イノベーションの法律だが、1895年に先導者が不要とされ、1896年には制限速度が時速14マイルまで引き上げられた。しかし、自動車産業の黎明期において、英国がドイツ、フランス、米国に大きく後れを取る要因になったと考えられている。

今日のイノベーションの課題に関しても、既存産業の創造的破壊を忌避し、既得権の保護に傾斜すれば、産業は二流化し、経済的成長が阻害されるものと心しよう。