人手不足の「業種格差」を放置すれば、日本経済ははてしなく停滞する

既存産業の「創造的破壊」が必要だ
竹中 正治 プロフィール

この点について、日本企業がそれまでより「従業員軽視、利益本意」になったと嘆く声もあるようだが、むしろ90年代後半に起こった期待成長率の低下という環境に合理的に適応した結果と言うべきだろう。

つまり、90年前後までの比較的高い経済成長の下では、景気後退期に企業内で人員余剰が生じても、次の景気回復期にはより多くの人員が必要になる。そのため、景気後退期でも熟練度の高い正社員を中心に雇用を維持することに合理性があった。

ところが低成長下では、次の回復期により多くの人員が必要になる可能性は乏しく、景気後退期に抱える余剰人員はそのままコストになってしまう。そこで景気変動による人員の過不足を非正規雇用で調整することの方が、企業行動としては合理的になる。

ちなみに、雇用人員判断DIは大中小の企業規模別に開示されているが、図1では3つの単純平均を使っている。中小規模の企業の方が大企業よりも、より人員不足感がやや強い点を除くと、企業の規模による分布傾向の違いはほとんど見られない。

 

ミスマッチによる人手不足は長期化する

こうした状況が2000年以降の景気変動の中で繰り返されて来たのだが、さらに一段の構造変化が始まっている兆候がある。

2013年以降の実質GDP経済成長率は平均1.5%であり、これは2000年以降の平均値1.0%から向上したものの、その差は0.5%で景気に特段の過熱感があるわけでもない。しかし労働市場は2000年以降ではなかったほどに需給が逼迫し、人手不足になっているのだ。これはなぜだろうか。

長期的な供給サイドの要因としては、もちろん全人口に占める生産年齢人口の比率が低下していることがあるのだが、需要サイドの要因としては、(必要不可欠ながらも)低付加価値の職種が増えることで、その分野に雇用が吸収されているからだろう。

その代表的な分野が「医療・福祉」である。

前掲の「日本経済を食い尽くす、医療・福祉への『雇用一極集中』」で述べた通り、2002年以降、医療・福祉分野での雇用者は430万人(現行データが遡れる2002年1月)から748万人(2017年2月)へと、318万人も急増している。雇用全体では同期間に451万人増えており、増加分の70.5%を医療・福祉が占めていることになる。

すでに日本では生産年齢人口(学卒から64歳までの人口)が緩やかに減少している。それでも雇用総数が増えているのは、女性や65歳以上の高齢者の雇用が増えている(=労働参加率が上昇している)おかげだ。

労働参加率の上昇は、女性の就業率の上昇と、健康余命の伸びに支えられた高齢者就業者の増加で、もうしばらく続きそうであるが、あと10年もすれば上昇の限界にぶつかるだろう。しかし、人口に占める高齢者の比率は2040年代まで増え続ける。

こうした事情の結果、人手不足は長期的、趨勢的なものになるかもしれない。もちろん、人手の過不足は景気動向次第で変動するのだが、図1で見たように、同じ失業率の水準でも時代による企業の雇用人員過不足はかなり違うのだ。今後は同じ失業率の下でも、企業の人員不足感のレベルが上がるかもしれない。

その兆候はすでに現れている。2014年3月から15年3月までの期間、景気判断の重要指標として内閣府が公表している景気動向指数(一致指数)は6.2ポイント低下した。消費税率引き上げ後の国内消費の反動減に加え、中国経済の成長鈍化や原油を中心に国際天然資源価格が急落したことで、世界経済全体の不安定化が起こったためである。

これは景気後退と判定された12年3月から11月にかけての下落幅(6.8ポイント)にほぼ匹敵するものであり、景気後退と判定されても不思議ではなかった。2014年4-6月から15年10-12月の実質GDP成長率も平均マイナス0.1%だった。

ところが、この期間も雇用の回復は持続し、失業率は緩やかに低下、日銀短観の雇用人員判断も「不足」状態が継続したのだ。