司馬遼太郎、三島由紀夫、山﨑豊子…彼らの小説が名作と呼ばれるワケ

小松成美さんを作家にした10冊の本
小松 成美

呆然となった劇的なラスト

今の日本は、先の大戦を抜きに語れないわけですが、私が戦争を初めて深く知ったのは『武器よさらば』によってでした。

ヘミングウェイは第一次世界大戦から第二次世界大戦に至るまで、何度も戦地に立っていて、この小説も、イタリア戦線で重傷を負った自身の体験をもとに書かれています。

子供の頃に読んだとき、凄絶な戦場描写と悲劇的なラストに、しばらく呆然となったのをよく覚えています。主人公はすべてを失うんです。あのシーンにこそ、戦争に対するヘミングウェイの考えが凝縮されているのではないかという気がしています。

そのヘミングウェイと、“最大の作戦”として知られるノルマンディー上陸作戦で出会っているのが、ロバート・キャパです。キャパもまた戦地に赴いて、戦場写真を撮り続けた写真家でした。

 

ちょっとピンぼけ』は、タイトルからは想像もつかないような過酷な従軍戦記。ノルマンディー上陸作戦のとき、キャパは銃弾の雨をあびてピントが合わせられなかった、その結果、写真が「ちょっとピンぼけ」になったんですね。

私はこの本を読んで、自分もノンフィクションを書きたいと思いました。が、到底、無理だろうとも思った。そこで就職するのですが、20代半ばで体を壊し、療養を余儀なくされたのです。その時、失敗してもいいからやりたいことをやろう、本を書いて生きていこう、と決めました。

では自分は何を書くのか。パッと頭に浮かんだのが山際淳司さんの「江夏の21球」(『スローカーブを、もう一球』に収録)でした。山際さんは野球をやったこともなければ、題材となった日本シリーズを見てもいなかった。しかし、後にインタビューを重ねてあの傑作を書き上げたのです。

経験がなくても取材でスポーツが書ける、それを教えてくれたこの短編を手に私は『Number』編集部を訪れ、作家としての一歩を踏み出したのです。

(取材・文/砂田明子)

▼最近読んだ一冊

「イーロン・マスクは、自分は火星に降り立つ最初の人間になると公言している天才起業家。人類は多惑星で生きる移動民族になると。ジョブズ同様、変人で御し難い人物であるだけに、夢を託せる人。会ってみたいですね」

小松成美さんのベスト10冊

第1位『竜馬がゆく』(全8巻)
司馬遼太郎著 文春文庫 650円(1巻)
幕末維新史上の奇蹟・竜馬32年の生涯。「あの時代の爆発的エネルギーと、変化を受け入れる寛容さを共有してほしい」

第2位『不毛地帯』(全5巻)
山崎豊子著 新潮文庫 890円(1巻)
11年にわたるシベリア抑留生活の後に、航空自衛隊の戦闘機選定や油田開発の“商戦”へと身を投じた男の一大巨編

第3位「憂国」(『花ざかりの森・憂国』に収録)
三島由紀夫著 新潮文庫 550円
〈三島のよいところ悪いところすべてを凝縮したエキスのような小説〉を1作だけ読みたい人に三島自身が薦めた短編

第4位『武器よさらば
アーネスト・ヘミングウェイ著 高見浩訳 新潮文庫 750円
第一次大戦で負傷したアメリカ人青年とイギリス人看護師。戦争に翻弄される男女の運命

第5位『ちょっとピンぼけ
ロバート・キャパ著 川添浩史・井上清一訳 文春文庫 552円
「キャパは戦地での恋も綴っている。反戦記というより、あの時代の声が聞こえる手記」

第6位『夜と霧
ヴィクトール・E・フランクル著 池田香代子訳 みすず書房 1500円
「人間の愚かさと素晴らしさを同時に知る名著。もっと読まれないとダメだと思う」

第7位『一九八四年
ジョージ・オーウェル著 高橋和久訳 ハヤカワepi文庫 860円
「1948年に書かれた作品だが、“今”のこととして読める。恐ろしさと文学の力を感じる」

第8位『アンダーグラウンド
村上春樹著 講談社文庫 1080円
「小説家がノンフィクションとして書いた地下鉄サリン事件。後世に残す覚悟を感じた」

第9位『64』(上・下)
横山秀夫著 文春文庫 各640円
昭和64年に起きた誘拐事件を追う刑事たち。「あの時代だから起きた犯罪を描いている」

第10位『スローカーブを、もう一球
山際淳司著 角川文庫 560円
1979年、広島対近鉄の日本シリーズ最終戦9回裏、江夏豊に何が起きたのか。傑作8編

『週刊現代』2017年9月2日号より