結局のところ、「シリア内戦」は今どうなっているのか? 

「IS制圧で一安心」ではまったくない
末近 浩太 プロフィール

主導権を掌握したロシア

しかし、それでもなお、主導権はロシアの手中にあった。

2017年7月、ロシアは――ここでもイランの勢力拡大の可能性をちらつかせながら――シリア南西部での部分的停戦に向けての合意を取り付けた。その相手は公式には米国とヨルダンであったが、おそらく背後にはイスラエルの存在があった。

ヨルダンとイスラエルは、ともに米国の同盟国である。両国にとって「IS後」のシリア紛争の「最悪のシナリオ」は、イランの勢力拡大である。そのため、これを回避するために、ロシアとの取引、すなわち、部分的な停戦に合意するという「ましなシナリオ」を選択したものと見られている。

イランの行動に一定の影響力を持つロシアに対して、米国は受け身に回ることを余儀なくされた。

ティラーソン国務長官は、このシリア南西部での停戦合意を認めながら、「シリアでアサド家が長期的に役割を果たすとは想定していない」(2017年7月7日)とロシアとイランの動きに釘を刺すのが精一杯であった。

 

置き去りにされるシリア人

では、ロシア主導の「緊張緩和地帯」の設置と部分的な停戦に向けての試みは、どのように評価されるべきだろうか。

デミストゥラ・シリア問題担当国連特別代表が危惧するように、「緊張緩和地帯がシリア分割をもたらす」恐れは十分にある。だが、その一方で、部分的でも停戦が実現していけば、段階的に紛争を沈静化できる可能性は高い。

少なくとも、「ジュネーヴ・プロセス」が実質的な停戦の実現に幾度となく失敗してきた事実に鑑みれば、これが現段階での現実的な方法なのかもしれない。

しかし、留意すべきは、この部分的な停戦の枠組みが、シリアの様々な政治勢力はおろか、苦難のなかに置かれてきた一般市民をも度外視した、諸外国の思惑によって推し進められていることである。

〔PHOTO〕gettyimages

確かに、すべてのシリア人を主体とする包括的な和平協議にこだわり続ければ、戦闘の終結を見込むことは難しいのかもしれない。

しかし、だからといって、諸外国の思惑に沿った部分的な停戦を実施することは、シリア人自身の意思を置き去りにするだけでなく、シリアの主権と領域を改編することにもなりかねない。

こうした悲劇的な状況を眼前にして想起されるのは、英国のジャーナリスト、パトリック・スィールが1965年に著した『シリアをめぐる闘争』の冒頭のことばである。

「それ〔シリア〕は特別な関心を受ける国際規模における競合する利害の写し絵である。実際には、その国内情勢については、より広い文脈、すなわち、まずアラブの周辺諸国、次に関心を抱くその他の諸勢力に関係しない限り、ほとんど意味をなさない。」

国際環境が大きく変わったとはいえ、半世紀以上前と同様のことが今も起こっているのである。