結局のところ、「シリア内戦」は今どうなっているのか? 

「IS制圧で一安心」ではまったくない
末近 浩太 プロフィール

イランとトルコの思惑

では、なぜ、これまで対立してきたイランとトルコがこの部分的停戦の枠組みに合意したのだろうか。その背景には、それぞれの思惑があった。

イランについては、シリア紛争においてこれまで歩調を合わせてきたロシアの意向を重んじる必要があったものと思われるが、何よりもこうした停戦の実現自体がアサド政権の存続を可能にさせるというメリットがあった。

他方、トルコの関心は、クルド人の実効支配地域の拡大を阻止することにあった。シリアのクルド人による実効支配地域が拡大することは、トルコ国内のクルド人による分離独立の動きを刺激する恐れがある。

そのため、トルコ軍は、2016年夏から反体制諸派への支援を名目にシリア国内に部隊を展開し、クルド人の民兵組織と交戦を繰り返してきた。

とはいえ、そこで問題となったのは、米国がISやアサド政権と対峙させるためにシリアのクルド人を支援してきたことであった。例えば、ISの「首都」と呼ばれたラッカの包囲戦を担ったシリア民主軍(SDF)は、実質的にはクルド人の民兵組織(YPG)によって構成されていた。

つまり、トルコから見れば、クルド人だけでなく、米国の動きも牽制しなくてはならなかった。そのため、米国の「敵」であるロシアやイランへと接近したものと見ることができよう。

このように、ロシアは、シリア紛争に関わる周辺諸国のそれぞれの思惑を利用する――あるいは「弱み」につけ込む――ことで、自らが主導する部分的停戦の枠組みに引き込もうとしている。

 

ロシアよりもイランを警戒する米国

とはいえ、米国がロシアにフリーハンドを与えたかと言えば、そうではない。米国が関心を失ったのはシリア、特にアサド政権の退陣(つまり民主化)であり、紛争それ自体の帰趨ではなかった。

米国は、シリア紛争における「勝者」の1国となりつつあるイランの中東での影響力拡大、とりわけ、イスラエルに対する安全保障上の脅威増大を警戒している。

アスタナでのイランとトルコ主導の「緊張緩和地帯」の設置合意は、見方を変えれば、シリアにおけるイランの政治的・軍事的なプレゼンスを黙認する(あるいは排除しない)ことに繋がりかねない。事実、イランがシリア国内に革命防衛隊の軍事拠点の設置を目指しているとも報じられている。

そのため、「緊張緩和地帯」の設置が合意されたタイミングで、米国は新たな動きを見せ始めた。ヨルダン国内で育成してきた反体制諸派の部隊をシリア領内に進軍させ、また、アサド政権の部隊に対して「緊張緩和地帯」への侵入を理由に空爆を実施したのである。

その目的は、アサド政権の打倒でもなく、ISの壊滅でもなく、イランからイラクを経て、シリアまでが陸路で繋がることを阻止するためであったと見られている(だが、結局、アサド政権の部隊は米国が拠点としていたタンフ国境通行所を迂回してイラクとの国境まで達したため、その目的は果たされなかった)。

米国による新たな動きは、シリア北部でも見られた。ISの「首都」であるラッカ周辺に力の空白が生まれつつあるなか、米国は、シリア軍の戦闘機を撃墜するという攻勢に出ることで、自らの「パートナー勢力」であるシリア民主軍の実効支配地域の拡大を後押しした。