老人は捨て、若者は奴隷に…日本の介護の「さらなる絶望」

施設での死亡事故が続発する中で
中村 淳彦 プロフィール

なぜここまで人材劣化したのか

藤田 介護保険前は行政が介護が必要と認めた人に対する行政処分として介護サービスを提供する、措置制度が敷かれていた。職員の給与は租税方式で徴収した税金でまかなわれ、給与も公務員に準ずるくらいの賃金だった。

けれども、2000年の規制緩和で民間に介護が渡されると、ニチイ学館、コムスン、ベネッセ、メッセージといった企業が事業展開、さらに不景気の煽りをうけた「介護」を知らない経営者をはじめあらゆる人たちがどっと参入した。

そうなると、当然人材が足りなくなる。事業をまわすために、誰でもいいから採りたいという経営者側と、介護職の基準に達していない人材が集まり劣化した。

中村 2005年あたりまで介護保険制度にあやかる、ヘルパー2級の資格ブームがあった。介護にたくさんの人が興味を持ったのに、介護業界は高齢者の生活の質の向上を煽るばかりで介護人材を大切にしなかった。介護職を使いたおし潰しまくって、産業として発展する大きなチャンスを逃した。

措置制度時代の優秀な福祉人材や、介護に興味を持った一般人たちは、その状況にうんざりしてみんな逃げた。もう今の惨状は自業自得。その後は不景気による失業者と不健康な人たちが入職者のメインとなって、今は彼らが介護現場の中心になっている。

藤田 ヘルパーはハローワークの支援制度を使えば無料で取れる上に、要件を満たせば受講給付金までもらえる。つまり国がお金を払って量産したヘルパーたちが2009年あたりから出始めて、その後介護福祉士、実務経験の5年をつんで今はケアマネジャーになっている。

そもそも介護職を目指して業界に入った人たちじゃない、「介護をする」ということに興味のない人たちが、現在ケアマネジャーをやっている事態。だからまともなケアプランを作れない。そういう問題も起きていますね。

元株式会社日本介護福祉グループ代表理事会長の藤田英明氏

中村 ケアプランが作れなければ、現場も機能しない。いまやそんな量産された人たちが専門学校や初任者研修の講師をしている。量産された人たちの中には、もともとケアに対する意識が薄い人たちも多い。ケアへ心構えのない人たちが教えれば当然、同じタイプの介護職がさらに増える。介護に向かない人材の量産体制が常態化する。

藤田 介護保険制度が敷かれる以前の措置時代にいた人たちと現在の介護職とでは、本当に人材の質はまるっきり違いますよ。昔の介護職は介護職になりたい人たちが大半だった。だから勉強もする。自分のスペックを上げようとする姿勢があった。今はそんな話はほとんど聞いたことがない。

中村 国の雇用政策が大きく影響したね。国が介入した瞬間から産業に歪が生まれて、最終的に崩壊まで壊れる一部始終を初めて眺めて驚いた。ビフォーアフターで本当に全然違う。

介護現場は社会保障費の削減という国策に巻き込まれ、失業者の生活保護の代替として利用された。それが決定的な原因となって、絶望的な現状を迎えてしまった。もうやり直すには規模が大きすぎて動かしようのない状態にまで陥っている。

若者はみんな逃げるべき

藤田 僕個人が起業した2004年ごろから3年くらい前まで、介護業界の発展のために「若者を介護職へ」と謳った。それは最初、自社のためではなく、社会にとって本当によいと思ってやっていた。

けど少子高齢化で、生産人口が少なくなるなか、日本はGDP600兆円が目標と言う。「国の売上」を上げていかなければならないのに、若者を生産性のない介護で働かせていいのかって自省的に考えるようになったんだよね。

中村 国は1ヵ月暮らしていけるレベルの賃金を介護職に支払うつもりはないでしょう。若者はこれから何十年も働かなければならないので、本当に介護職はやめた方がいい。自分の人生潰すことになる。

やり直しの利く20代の介護職は全員、今すぐに辞めたほうがいいし、介護を専門にする学生だったらお金を返してもらって他業種の養成学校に転校したほうがいい。若者は生産して納税するのが社会貢献だよ。

 

藤田 僕もいまの現状を見る限り若者に介護職は勧められない。でも介護職の人手不足は何とか解決しないといけないのも確か。そんななか、外国人技能実習制度に介護職種を加えることが決まった。働きながら日本の介護職の技術を学び5年したら帰国するという建前で11月にベトナム人が1万人くる。

中村 失業者の次は、本格的な外国人の受け入れですね。2008年からの経済連携協定(EPA)では、候補者は人材マッチングにより選定され、訪日前と後に半年~1年程度の日本語研修経てやっと受け入れ施設で働くという厳しい基準があった。

でもこれから始まる外国人技能実習制度は、発展途上国地域の経済発展の人づくりに協力するという趣旨で見直された制度で、日本語のレベルも低く政府のバックアップ体制もない、つまり簡単に言えば労働力になってくれる外国人は誰でも受け入れるという制度。

日本語がほとんど話せない外国人が慢性的に忙しい介護職に就いたら現場はさらに混乱する。労働組合は賃金のさらなる低下を危惧して外国人の受け入れに反対だし、保守系の人は未来の日本に日本人がいなくなると憤る。

2016年にはこの制度を使って日本に入国した中国人が5年間で1万人も失踪、不法残留や資格外活動をするケースも多いと話題になった。実習生は人件費が日本人と比べて安いことから、空き巣などの窃盗罪で逮捕されるケースも多いという。