東京大学で起こった、非常勤職員の「雇い止め争議」その内幕

最大10万人に影響が及ぶ可能性も
田中 圭太郎 プロフィール

まずは、東京大学の非常勤教職員の雇用形態を見てみよう。

東京大学の非常勤教職員は、基本的に単年度契約で、契約は最長5年まで更新できる。その上で2種類の契約に分かれている。

ひとつは「特定有期雇用教職員」と呼ばれるフルタイムの教職員。特任教授をはじめ、特任の准教授・講師・助教・研究員や、有期雇用の看護師・薬剤師・医療技術職員などを指す。その人数は公式ホームページによると2694人となっている(2015年5月1日現在)。

もうひとつは、「短時間勤務有期雇用教職員」。いわゆるパートタイムワーカーで、大学の事務や技術、教務、医療技術、看護技術などの補佐員として働いている人たちのことだ。補佐といっても、各学部の事務や、大学病院での看護スタッフなど、実際に行っている業務はフルタイムの教職員とさほど変わらない。

違いは、特任の教員ではないことと、勤務時間が週35時間以内に限定されていることだ。人数は2017年1月時点で5300人と多く、全体の8割を女性が占めている。

 

2職種あわせて約8000人にのぼる非常勤教職員は、このまま働いていれば、2018年以降には自然に、改正労働契約法によって無期雇用職員への転換を申し込む権利が発生したはずだった。

しかしながら、無期雇用者が増大すれば、人件費がかさみ財政が苦しくなることを恐れたのだろうか、東京大学は、独自に「東大ルール」なるものを設定し、これに対応することにしたのだ。

5年でリセット…?

「東大ルール」では、この2職種の人たちを、原則最長5年で「雇い止め」をすることを明記している。フルタイムの教職員の一部と、国立大学の法人化前から東京大学に勤務しているパート教職員480人は2018年に無期雇用に転換されるようだが、それ以外のほとんどの人は雇い止めされることになる可能性が高いのだ。

さらに、「東大ルール」には「6か月のクーリング期間の適用」が記載されている。5年働いたパート教職員は、6か月の休業期間を経た後なら、再び上限5年で雇用することを可能、としている。

が、改正労働契約法では、一度6か月もの休業期間を経ると、「雇用継続の期待権」がリセットされてしまい、無期転換の機会を失ってしまうことが定められている。5年働いても、その後半年間の休みをとれば、勤務期間がまた「ゼロ」からとなり、いつまでも無期雇用には至らなくなってしまう。

文書では、これがさも合理的であるかのように記載されているが、無期転換(正規雇用化)を阻止するためにクーリングすることは違法、または脱法行為にあたるとさえいわれている。

また、このクーリング期間は、以前から設けられていたものだったが、それまでは「3か月」であったものを、東大は改正労働契約法施行後、これを6か月に変更した。3か月の休業期間では雇用期間が「リセット」されないため、急遽これを伸ばした可能性がある。これは「労働条件の不利益変更」にあたる、と指摘されるものだ。

東大側は、このような「雇用制度改革」を2013年ごろから掲げて周知していた。当然ながら組合は反発、2016年から東大側の理事・弁護士と交渉の場をもち、見直しを訴えてきた。

筆者は前回の記事で、早稲田大学がほぼ同様の「改革」を掲げ組合と衝突、話し合いの結果、大学がその改革案を撤回するまでの過程を報じた。(<早稲田大学で起こった「非常勤講師雇い止め紛争」その内幕→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52333>この流れの中で、東大もおそらくは撤回、あるいは組合側に妥協するものだろうと、「東大労働争議」の推移を見ていた。

そのようななかで、去る8月7日午後に開かれたのが、東京大学と、東京大学教職員組合、そして首都圏大学非常勤講師組合による団体交渉である。組合側は、希望するすべての教職員に対して、5年以上働いた場合は無期雇用に転換するよう、再度求めた。

ところが、東京大学は方針変更を認めなかったのだ。これによって、「東大ルール」が実施されることがほぼ確実となり、2018年4月に大量の「雇い止め」が行われる可能性が高まったのだ。

編集部からのお知らせ!

関連記事