パリで出会ったアーティスト夫妻が、山奥の元保育園に移住したワケ

田舎暮らしで人生変わった【前編】
川内 有緒 プロフィール

保育園にはシャワーはあったものの風呂はなく、修理や掃除に手間とおカネがかかる。そこで2人は「家賃は5千円で」とお願いした。担当者は、しばし考えた末に「せめて1万円でお願いしたい」と返答しした。こうして、元保育園への入居が決定。町長も喜び、「これから街をどんどん活性化してください!」と声をかけてくれた。

2人は住民票を移し、正式に移住者となった。

 

終わりかけていたはずの取材が……

建物はあまり傷んでいなかったものの、もともと住居用ではないので、少々の改築が必要だった。最初に導入したのは、庭の五右衛門風呂。砂場だった場所をうまく利用して作った。しかし、寒くなってくると野外での入浴もきつくなり、台所の奥に内風呂を増築。また薪ストーブを入れ、太陽熱温水器も導入した。

ほとんど知り合いもいない、閃きだけに導かれての移住だったが、今やガキさん&リンダさん一家はすっかりこの町の一員だ。その後、2人の男の子も生まれ、今や家族四人での暮らしである。

町を元気にしてほしいという期待通り、去年はガキさんが中心となり、地域芸術祭の「美咲芸術世界」をプロデュース。岡山県の事業にも選定され、パリや国内のアーティストがやってきて滞在制作と展示を行なった。

今年の9月には第2回目も企画され、ガキさんは町の人を巻き込んだ演劇作品を準備している。また、喫茶スペース「キッサコ」に立ち寄った人や芸術祭参加アーティストがここに移住してきて、周囲は賑やかになった。

ガキさん。photo by Ario Kawauchi

「移住してきた当初は、近所にお酒を飲める場所がないのがちょっと辛かった」
とリンダさんは振り返るが、今や歩いて30秒の場所に、週末限定の居酒屋がオープン。 また美味しいパン屋さんもでき、もはやなんの不満もなくなった。

「ここに移住して来て本当によかった」

そう繰り返す会話の途中で、「ここで山伽も産んだしね」とリンダさんはさらりと言った。その時、目線の先にあるのは、畳敷きの広い客間であった。

ここって、もしかして本当に「ここ」のことだろうか? 

確認すると、「そう、山伽は自宅で出産したんだ」と言うではないか。

えっ、自宅で出産!? 

この瞬間、終わりかけていたはずの取材が、第2ラウンドに入った。

後編に続く

チャンスを摑んだのは31歳の時。2年前に応募した国連から突然書類審査に合格との知らせが舞い込んだ。2000倍の倍率を勝ち抜き、いざパリへ。世界一のお役所のガチガチな官僚機構とカオスな組織運営にビックリしながら、世界中から集まる野性味あふれる愉快な同僚達と、個性的な生き方をする友人らに囲まれて過ごした5年半の痛快パリ滞在記。