認知症の父母に裁判所がつけた後見人。本来は中立な第三者であるはずの彼ら、弁護士や行政書士が、トラブルを抱えた子どもたちの一方に加担し、揉めている相手の兄弟姉妹が親に会うことを禁止する――。老人ホームなどに入居している高齢者家族から、そんな驚くべき越権行為に憤慨する声が続々とあがっている。
隠れた社会問題に迫る連続レポート第3回(前回までの内容はこちらから)。
成年後見制度を巡って起きている、さまざまなトラブル。今回、注目したいのは、「成年後見人が老人ホームに指示をして、子どもを認知症高齢者に会わせないようにしている」ケースだ。
成年後見制度に詳しい宮内康二氏(一般社団法人「後見の杜」代表)によると、「後見人と施設に阻まれて、親の死に目に会えなかった人もいる」というから、問題は深刻だ。
いったい、どういうことなのか。私が実際、現場に居合わせた中でも、こんな実例があるのでご紹介しよう。
東京都内在住の長男が、母親が入居している埼玉県内の老人ホームを訪れ、受付で「母に会いたい」と伝えた。ところが施設側は、
「補助人(注・認知症の症状が重い順に後見人、保佐人、補助人が家裁によって選任される)の弁護士さんから、『長男が来ても会わせるな』と言われています」
と面会を拒否。長男が諦めずその場で粘ったところ、施設側が警察を呼び、言葉通り「警察沙汰」の大騒動になってしまったのだ。
なぜ、こんなことが起きたのか。実は、そもそもの火種は家族の中にあった。
母親はもともと、都内でマンション経営をしていた資産家だった。それが軽度の認知症になったため、家裁の選任した弁護士が補助人に就いたわけだ。
一方、子どもは長男と長女の2人兄妹。母親に補助人がつくことになったのは、長女が家裁に申し立てをしたためだった。後見制度の申し立ては、家族全員の同意がなくてもできるのである。
大手企業に勤務していた長男は、会社を退職してマンション管理をしていたのだが、長男と長女の間では、そのマンション管理を巡る対立があった。
このように、複数人の子どもの間で、財産問題などの対立がある場合、ある子どもが先手を打って、「自分自身、もしくは親しい弁護士や司法書士を後見人や補助人にしてほしい」と申し立てるケースは、珍しくないのだ。
後見人という立場を嵩に着て、優位に立とうとするのである。そうした中で、今回のように「自分以外の兄弟姉妹を親と会わせないように手を回す」といった暴挙に出るケースが出てくる。
こう書くと、「それはただの兄弟げんかのようなもので、成年後見制度の問題ではないのではないか?」と感じるかもしれない。
だが実際には、成年後見制度に対する誤った認識が、老人ホームのような認知症高齢者を受け入れる施設の業界側に広く蔓延していることが、問題を複雑化させている。今回のケースを、もう少し詳しく見てみよう。