「ゴミ屋敷」や「だらしなさ」は病気か? なんでも医療化の功罪

新しい病気が次々生まれている…
美馬 達哉 プロフィール

原因不明で、治療法もまだない

今のところ、ゴミ屋敷・ため込み症の原因は不明だ。ただしいくつかの仮説はある。

そうした人々は、他人にとってはがらくたでも自分にとって意味のある品物に囲まれていると落ち着くと表現することがある。だから、動物で言えば自分の安全を守る「巣作り」のようなものだという説がある。

また、品物の細部に注意が行く過敏な視覚能力があって、一つ一つに愛着がわいて捨てられないという説もある(こうしたハイパー視覚は自閉症スペクトラムの人々にも見られるという)。

いまのところ特段の治療法はなく、捨てることを強制せずに促すための丁寧なカウンセリング(認知行動療法)しかない。本人が納得しない状態でのがらくたの強制撤去は最悪の手段だ。あっという間に元通りかそれ以下のゴミ屋敷に戻ってしまう。また、「巣」を破壊されたショックで住人が急死することさえもある。

さらに行政としても「ゴミ」は本人の私有財産なので手が出せない。強制的な撤去ができる法律は、「空き家対策特別措置法(2015年施行)」や関連の条例ぐらいで、それも本人が居住しなくなったり亡くなられた場合に限られている。

ここで問題になるのは、原因不明で治療法もはっきりしないのに病名をつけて診断することは何か役に立つのか、という点だ。

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医療化という「病気」製造業

品物や情報にあふれた消費社会のなかで、整理整頓がうまくいかない悩みは誰もが経験したことはあるだろう。「断捨離」など片付け術がもてはやされるのはそのせいだ。

さらに進めて、だらしなさは短所というだけでなく、「ため込み症」という病気の症状だと考えるとどうなるのか、そのことを私のもう一つの専門である「社会学」の視点で見直してみたい。

従来は医療の問題ではなかったことが、新しく病気や障害と名付けられて医療の領域の問題となることを、社会学では「医療化」と呼ぶ。

 

たとえば、かつての意志の弱い酒好きな人は、現在ではアルコール症(アルコール依存症)と呼ばれる。

また、義務教育の学校で集団生活になじめない子どもは、現在では「発達障害」などの病気や障害の診断を下される。

中年でお腹周りが大きい人は糖尿病予備群だったりすると、メタボことメタボリック症候群という病気と見なされて保健指導を受けるはめになる。

子どもが生まれないカップルというのは昔から存在していたが、いまでは不妊症という病気だ。

高齢のために耄碌(もうろく)した人は、いまでは認知症である。

これらを見ると、現代社会では、各種の「異常」を見つけ出して病気や障害と名前を付けること(医療化)が多い、とも言える。

ただし例外もある。実際には現代になって病気ではなくなった状態も数は少ないが存在しているからだ。たとえばゲイやレズビアンのような同性愛は、昔は病気と思われたこともあったが、いまでは個性の一種となった。

こういうわけで、社会学者にとって現代社会での医療化は複雑で興味深い研究課題なのである。そして、その最新ケースがため込み症「発見」である。