2017.08.13
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「神」と呼ばれる棋士は、並みの天才棋士と何が違うのか

生き様、戦法、それとも若さ?
塩田 武士 プロフィール

金の問題が原因で2年間を名古屋の飯場で過ごし、晩年は団氏が主宰する将棋雑誌の企画で、アマ強豪らを次々と討ち取った。酒浸りで家に将棋盤すらない男が、である。

だが、子持ちの人妻と駆け落ちし、血を吐いて倒れてからは、その人妻が男をつくって、生きる気力をなくした。最期は病院で生命維持装置の管を引きちぎって44年の生涯を終えたという。末脚が切れる差し馬のような将棋でファンを魅了したが、人生では逆転を起こせなかった。

人生は変化に対する姿勢で決まる

人工知能の核心』は「NHKスペシャル」の取材を基に、主に羽生三冠が執筆する形で書籍化。

「コンピュータがプロ棋士を負かす日は?」という約20年前の問いに対し、他の棋士とは異なって「2015年」と予言したのは、羽生三冠である。

人工知能(AI)が人類の能力を凌駕するシンギュラリティはいつ訪れるのか。オックスフォード大学が発表した「人類滅亡の12のシナリオ」のうち、極端な気候の変化や核戦争などと並ぶ原因の一つが、制御不能になったAIである。

AIについて考え続ける羽生三冠が、国内外の取材を通してまとめたレポートは、濃密で明快な論理展開が心地いい。難しい技術的な説明も、的確な比喩が随所にちりばめられているため、読みやすい。

羽生三冠が考える人類の強みは「汎用性」にある。一つの知識を他の分野に応用するには、事の本質を見極める目が必要で、この慧眼こそが、人間の脳の高度な一面だ。

感情や倫理観といった「心」の側面も、現状ではAIには踏み込めない領域である。今AIにできることと、今後可能にするための研究が、理路整然と紹介されていく。

羽生三冠の「人間は一貫性や継続性のあるものを美しいと感じる」という美意識に関する考察は、美しい棋譜を残してきた第一人者だからこそ。AIが完璧なものではないと認識し、いたずらに恐れず、人類にできることを考える。

結局、人生は変化に対する姿勢で決まるのではないか、との感想を持った。

『週刊現代』2017年8月19・26日号より

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