「フィリピンパブ嬢のヒモ」だった僕が結婚し、子供が産まれるまで

僕は日雇い労働へ、嫁は臨月までパブで働く
中島 弘象 プロフィール

僕の母は英語もタガログ語も話せない。ミカの母親とコミュニケーションをとるため、前夜、弟からスマホの翻訳アプリの使い方を教えてもらっていたが、上手く使いこなせない。日本語がわからないミカの母親は何が起こっているかわからず、パニック状態だ。

僕の母はとにかく、ミカの母に状況を伝えるために、

「カット!! オープン!!」

と、手で縦にお腹を切り、両手で開くジェスチャーをした。母がとっさに思いついた伝え方だった。ミカの母は帝王切開と理解して少し落ち着いた。

 

僕は、話を聞いた後、用事に戻るため病院を出た。病室では言葉の通じない2人の母だけになる。

ミカの母は、ミカの姉に電話しながら泣いている。僕の母もそんなミカの母を目の前にして黙っていることしかできない。

「ミカちゃんのお母さんは泣いてるし、電話で何を話してるかもわからないし、私も言葉が通じないからどう話せばいいかもわからないし、本当にどうすればいいかわからなかったよ」

泣いているミカの母。そしてどうすることもできない僕の母、病室の空気は重かった。

ミカが手術室に入ってから1時間後。

「元気な女の子ですよ。ママも元気です。安心してくださいね〜」

看護師が生まれたばかりの赤ちゃんを連れてきてくれた。

「本当に安心した。ミカちゃんも赤ちゃんも無事で。そしたら私も涙が出てきちゃった。ミカちゃんのお母さんと嬉しくてハグしたよ」

病室で2人の母は号泣した。

この子のために頑張る

夕方、僕が病院に戻ると、ミカは鼻に酸素チューブがつけられ、点滴が刺された状態で眠っている。隣には小さな赤ちゃんがいる。体重2800グラム。身長49センチ。生まれたばかりの僕たちの娘だ。

病室には僕の両親、ミカの母、ミカの姉の家族も来ている。

「おめでとう。パパになったね。抱っこしてあげて」

ミカの姉が嬉しそうに言う。

初めて抱いた娘は、軽く、僕の腕の中で気持ちよさそうに寝ている。ミカが目をさますと小さな声で、

「赤ちゃんどう? 可愛い?」

「めちゃめちゃ可愛いよ。自分の子供がこんなに可愛いなんて思わなかった!」

「そうか。よかった。ちゃんと子供のこと可愛いって思ってくれるか、心配だったから。顔の形あなたそっくりだよ」

「ありがとうね。元気な赤ちゃん産んでくれて」

「私もありがとうね。2人のベイビーできて嬉しいよ」

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子供ができた時、これからどうしよう。正直、まだ子供は先でもよかったのに、と思っていた。ミカのお腹の中で育っていく姿を見てもまだ実感は湧かなかった。でも、いざ我が子を抱くと、そんな気持ちは吹き飛んだ。

「この子のために頑張る」

病室にいたみんなが笑顔になった。