エベレスト登頂に成功して、待っていたのは「拉致監禁生活」だった

第19回ゲスト:野口健さん(前編)
島地 勝彦 プロフィール

山男たちを慰めるメイド・イン・ジャパン

島地: 山は男だらけの世界だと思うけど、アッチのほうは?

野口: テレビとビデオデッキがあれば、やっぱりアダルトビデオですね。息抜きにはもってこいというか、その瞬間だけは別の世界に飛んでいけるから。ただヘッドホンをしないと、ヒマラヤにAV女優の艶めかしい声が響くことになります。

日野: それはなかなかシュールな光景ですね。でも、標高が上がっていくとビデオは無理ですよね。

島地: そこはやっぱりエロ本の出番だろう。

野口: おっしゃる通りです。標高の高いキャンプには、それこそ世界各国の、いろんな言語のエロ本が山積みです。書いてあることはわからなくても、写真で載ってるのは万国共通なので。

島地: その中で一番人気なのは日本のエロ本?

野口: 実はそうなんです。

日野: 低酸素状態なら、そのものズバリの洋ピンのほうが話は早いのでは?

島地: まったくお前は、情緒というものがわかってないな。いい歳して風俗通いなんかしてる場合じゃないぞ。

野口: 情緒は大切ですね。そのものズバリだと、すぐお腹いっぱいな感じになってしまいます。そりより、見えそうで見えない日本のエロ本のほうが、「ああ、この薄い布一枚の向こう側はどうなってるのかなぁ」と妄想することになるので、置かれている環境の厳しさを一瞬でも忘れられるんです。実はそこが重要。

いろんな国のエロ本を見ましたけど、女性の肌をしっとり見せるために、霧吹きで濡らしているのは日本だけですからね。

島地: 確かに、「濡れる」っていい響きだよね。低酸素で意識がもうろうとしていても、そういう感性を失わないとは、やっぱり野口は、このシマジが見込んだだけのことはあるね。では改めて乾杯といきましょう!

後編につづく〉

(構成:小野塚久男/写真:峯竜也)
〔撮影協力〕D'arbre's Bar

野口健(のぐち・けん)
アルピニスト、亜細亜大学客員教授、了徳寺大学客員教授。1973年、アメリカ・ボストン生まれ。亜細亜大学卒業。植村直己の著書に感銘を受け、登山を始める。99年、エベレスト(ネパール側)登頂に成功し、7大陸最高峰最年少登頂記録を25歳で樹立。以降、エベレストや富士山に散乱するごみ問題に着目して清掃登山を開始。2007年、エベレストをチベット側から登頂に成功。近年は清掃活動に加え、地球温暖化による氷河の融解防止にむけた対策、日本兵の遺骨調査活動などにも力を入れている。2008年植村直己冒険賞受賞。2015年安藤忠雄文化財団賞受賞。主な著書に『落ちこぼれてエベレスト』(集英社)、『写真集 ヒマラヤに捧ぐ』(集英社インターナショナル)など。