薬物依存症患者と接するなかで学んだ、二つの大事なこと

フィリピン支援プロジェクトの現場から
原田 隆之 プロフィール

「依存症からの回復は楽しいこと」

薬物依存の治療について、フィリピンから学んだ大事なことが2つある。

先日、フィリピン保健省との会合で、フィリピン人医師が「Recovery is fun.」(依存症からの回復は楽しいことだ)と述べたのを聞いて、私ははっとさせられた。

これこそが、治療を受けている薬物依存症者に対して、一番大切なメッセージではないだろうかと感じたからである。

日本人は何かにつけ、物事に深刻になりすぎるところがある。確かに薬物使用は褒められたものではない。

しかし、ひとたび過ちを認め、そこから回復していく道のりは、楽しいものであってよいはずだ。薬物の呪縛や罪悪感から解き放たれ、心身の健康を取り戻し、悪い仲間やライフスタイルを捨て、新しい仲間や健康的なライフスタイルを身に付けて、生まれ変わった自分になっていく。

新しい趣味を見つけたり,新しい学びに取り組んだりすることもできる。薬をやっていたのではできない多くの楽しい体験が待っている。

依存症の治療は、いつも反省を口にしつつ申し訳なさそうな顔をして、失ったものや暗い過去を見つめてばかりで、後悔や罪の意識に苛まれた中での修行や苦行であってはならない。

もちろん反省や償いを忘れてはならないが、明るい未来のための、希望に満ちた楽しい活動であるべきだ。これは、日本の薬物依存治療に決定的に欠けている姿勢かもしれない。

 

もう1つの「薬物戦争」と戦う

もう1つは、家族やコミュニティからの支援の豊かさである。フィリピンは家族の絆がとても強く、地域社会のつながりもとても密接である。また、教会を通して深い信仰でも結ばれている。

フィリピンの専門家を日本に招いて、日本のある薬物治療施設を見学していたとき、その入所者のほとんど全員が、薬物が原因で離婚したという話を聞いて、一同ものすごく驚いていた。

日本では、例えば夫が覚せい剤で逮捕されたとなれば、妻が離婚を選んでも誰も不思議に思ったり驚いたりすることはないだろう。それどころか、むしろ周りは離婚を勧めるに違いない。

しかし、フィリピンの人たちはこう言う。

「離婚して一人ぼっちになってしまったら、誰が彼を支えるというのですか。われわれの国では、必ず家族や地域の人々が立ち直りを支えます」

過ちを犯した者を社会から排除し、必要以上に晒し者にして、侮辱したり非難したりする社会と、過ちを反省し悔い改めて立ち直ろうとする者を、温かく迎え入れ、回復に向けて共に進もうとする社会。

果たしてどちらが、成熟した居心地のよい社会だろうか。

「薬物戦争」に見られるフィリピンの人権状態は,きわめて深刻な状況にあることは確かである。報道や映画で見るフィリピンは、薬物犯罪者は殺されて当然と叫ぶ大統領に多大な支持が集まり、スラムの一角では、殺害された死体が転がっているような社会である。

しかし、その中にあっても支え合って、愛情や信仰を武器にして薬物問題と戦っている人々がいることも事実である。対策に駆け回っている役人や専門家、真面目に職務を遂行している警察官を私はたくさん知っている。

ニュースにはならないもう1つの「薬物戦争」がそこにはある。そして私は、日本とフィリピンの心強い仲間とともに、科学という武器を頼りに、この「薬物戦争」を戦っていくつもりである。