薬物依存症患者と接するなかで学んだ、二つの大事なこと

フィリピン支援プロジェクトの現場から
原田 隆之 プロフィール

子どもたちが収容され…

そこで、私はまず「エビデンス・ベースト」をキーワードにして、つまり科学的根拠に基づいた治療プログラムの開発を目玉にすることを提案した。

具体的には、治療施設だけではなくコミュニティ内での治療サービスの提供、アセスメントのためのツールの開発、現地の専門家の研修、子どもの保護や教育、貧困対策や雇用対策、自助グループの育成などをパッケージにした支援計画の骨組みを提示した。

そこからの動きは驚くほど速かった。JICAの担当者が初めて私の研究室に訪れてからわずか1ヵ月後、私は総理補佐官、関係省庁の担当官、そしてJICA担当者たちとともにマニラにいた。

激しいスコールとマニラ名物の渋滞に行く手を阻まれながら、最初に訪れたのはマニラ郊外にある薬物リハビリセンターである。そこには定員をはるかに超えた薬物使用者が収容されており、息も詰まるような光景であった。

何より驚いたのは、まだ小学生くらいの子どもが収容されていたことである。本人たちに話を聞くと、彼らはストリートチルドレンで、小遣い稼ぎに薬物密売人の手先をする中で、空腹を紛らわせるために覚せい剤を使っていたという。

この国では食料よりも覚せい剤が安く手に入るのだ。そして、覚せい剤を使用すると、その薬理効果として空腹を感じなくなるのである。

彼らはセンターの一角で算数の授業中だったが、生涯で初めて受ける教育が薬物リハビリセンターの中だという現実が、この国の薬物問題の深刻さを突きつける。

そして、「薬物は犯罪」という信念にがんじがらめになっていたわが国の警察庁からの同向者も「薬物問題の根本には貧困があるのですね」という感想を口にするのだった。

薬物乱用が犯罪であることは確かだが、この国では貧困問題であると同時に、それが疫病のように拡大している公衆衛生上や医療上の問題でもあるのだ。

 

フィリピンならではの明るさ

その後、私はほぼ2ヵ月おきにフィリピンを訪れているが、最初の暗澹とした気持ちは、次第に薄らいでいっている。

それは1つには、JICAや日本大使館の人々の支援に対する献身的な姿勢を見て、大いに力づけられたということがある。

途上国支援の最前線では、このような地道な取り組みが、日本に対する信頼を高めていることを日々実感している。

そしてもう1つは、この国の明るさと、薬物問題に取り組む専門家たちの熱意のお陰である。

何かにつけいい加減なところや、物事がなかなか前に進まないところには、この先も何度もイライラさせられるのかもしれないが、この国で仕事するのは悪くないという気持ちになっている。

何より、この国を訪れるたびに、私のほうが彼らから学ぶことが大きいのだ。