2019年に失業率ゼロ!? 果たして「1億総賃上げ時代」は来るのか

かつてない人手不足、そのとき企業は
南 武志 プロフィール

団塊世代がついに「退場」

団塊世代をめぐる人口動態の変化も、賃金の抑制要因だったと考えられる。

人口比率の高い団塊世代が、2000年前後に年功賃金カーブのピークである50歳前後を迎えたことで、企業の人件費負担が高まった。そのため、企業はリストラを強化して人件費の抑制を図った。さらに2000年前半以降、50代後半を迎えた団塊世代の賃金水準は下がり、それが1人当たり賃金の低迷に一役買うことになる。

そしていまや団塊世代は70代を迎えつつある。高齢者の気力・体力・知力の向上や、年金支給開始時期の引き上げもあって、60代の労働参加率はこの10年で大きく上昇したものの、70代は13%台で安定している。要するに、70代に対する労働需要はさほど変わっていない。

したがって、団塊世代が70代になるときに、急激に労働需要が高まることはないだろう。それは同時に、団塊世代が労働市場から退場することで、賃金抑制要因が消滅することを意味する。

最近では、残業時間が底入れしたことで、ここ数年の賃金抑制要因も剥落しつつある。これだけ抑制要因がなくなれば、賃上げ率は徐々に高まっていくだろう。

 

賃上げ恐怖症を脱却せよ

最後に、「失業率ゼロ」に迫る昨今の人手不足が、景気拡大の制約になるかを考えてみたい。

くり返しになるが、余剰労働力が枯渇すれば、ふつうはそれ以上の成長が難しくなる。ただし、日本の現状を考えてみると、労働力の有効活用を進めることで多少の余裕が生まれる可能性はあると思われる。

日本の労働生産性は、他の先進国に見劣りする水準であることに加え、上昇率もかなり低いとされる。過去十数年の歴代内閣はこぞって成長戦略を打ち出し、主要課題として「労働生産性の向上」を掲げてきたが、労働需給が緩んだ状態では成果はなかなか得られなかった。

しかし、労働力が希少なものとして意識され始めると、生産性の高い分野に優先的に労働力を投入するインセンティブが働きやすくなる。もちろん、労働力シフトが活性化することが前提だ。そのためには、生産性の高い産業・企業が、賃金をシグナルとして労働力を吸引していく必要がある。

優良企業がこれまでと変わらず賃上げに慎重な姿勢を続けた場合、今後の成長余地はどうしても限られてくる。しかし、賃上げに積極的になれば、成長の余地が生まれてくるわけだ。

要するに、政府や日本銀行による拡張的な経済政策はもちろん、企業の賃上げに向けた意識変革こそが、「失業率ゼロ」時代に経済成長を実現するカギなのである。