2019年に失業率ゼロ!? 果たして「1億総賃上げ時代」は来るのか

かつてない人手不足、そのとき企業は
南 武志 プロフィール

空前絶後の人手不足で「賃上げやむなし」

この「失業率ゼロ」試算が示唆してくれることはいくつかある。

第一に、持続的に1%台半ばの経済成長を想定するのは、そもそも無理があるのではないか、ということである。余剰労働力が枯渇してしまえば、それ以上の成長を続けることは困難になるからだ。

成長を維持しようと思えば、労働参加率をさらに引き上げるなど、労働力を「発掘」する必要がある。外国人労働者や移民の受け入れを模索する動きもあるが、まずは国内にある労働資源を開拓するのが優先であることは言うまでもない。

2017年1~3月期の労働力調査(詳細集計)によれば、就業を希望しながら仕事をしていない人の数は337万人で、そのうち「適当な仕事がありそうもない」という人は103万人。「出産・育児のため」「介護・看護のため」仕事をしていない人は、それぞれ93万人、19万人である。

彼ら彼女らを労働力とするには、働きやすい環境を提供するとか、保育所、介護施設の整備に積極的に取り組むとか、企業や行政に努力が求められる。

 

第二に、失業率ゼロというかつてない人手不足により、賃金上昇率がいままで以上に高まる可能性があるということだ。

民間エコノミストの平均的な見方では、2018年度にかけても物価上昇率は1%まで高まらないとされている。その背景には、賃上げ率はこれまでと変わらず鈍いまま推移するという想定があると思われる。

就職活動をする学生たち正社員の有効求人倍率は1倍を超えた photo by gettyimages

しかし、労働力が枯渇しようとしているのに、賃上げ率が高まらないということがありえるだろうか。既存企業の正社員の給与は上昇しにくいとされるが、以下に述べるように、生産性の高い企業が賃上げに積極的になれば、労働力移動が活性化し、全体の賃上げ率は必ずや高まるはずだ。

そうは言っても、ここまで労働需給が引き締まってきたのに、現実には賃金・物価ともなかなか上昇しない状況が続いているではないか、と言われると現時点では否定のしようもない。

かつて、米連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン議長は、利上げをくり返すほどに低下する米国の長期金利について「謎(Connundrum, コナンドラム)」だと言ったが、まさにそれに似たような状況である。

労働市場にはまだスラック(緩み)が存在するのか、現実の失業率は自然失業率(もしくはNAIRU)にまだ到達していないのか、それとも賃上げを抑制する原因がほかにあるのか。中央銀行関係者や経済学者、エコノミストを悩ませている。

もう企業も逃げられない

これまで、主な賃上げ抑制要因として、企業の非正規雇用ニーズの高まりが指摘されてきた。

1990年代以降、非正規雇用ニーズが高まったのは、バブル崩壊後の企業が雇用・債務・設備のいわゆる「3つの過剰」に直面したことが背景にある。

それらの過剰に対処するため、企業はリストラに着手し、人件費の抑制に注力した。同時に、コストが低く、流動化しやすい非正規従業員を多用するようになった。賃金体系も、業績に連動させやすい賞与(一時金)に重きを置くようになった。

組織率が著しく低下した労働組合は、もっぱら雇用維持に注力するようになり、本来労働者の取り分になるはずの、労働生産性の上昇分の賃上げすら要求しなくなった。

しかし、昨今の人手不足感の強まりは、企業の雇用政策に大きな転換を迫っている。

それは「非正規」から「正規」への逆流が始まっていることから推察される。最近の状況を見ると、(定年後に再雇用されるケースが含まれない)15~54歳の年齢層で、正規雇用された転職者が、非正規雇用となった転職者より増えていることがわかる。

また、厚生労働省の発表によると、今年6月の正社員の有効求人倍率は1倍を上回った。これには、団塊世代・ポスト団塊世代が労働市場の一線から退出しつつあることが影響しているだろう。

さらに、現金給与総額の動きを分析すると、パートタイム比率の上昇により賃金が押し下げられる状況からも抜け出た様子が見て取れる。