働きたいのに働けない!「最高益」でも電通社内は大混乱

「22時退社」効果で国内売上減…?
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「ミスを許さない」雰囲気

より露骨に、カネの問題を懸念する社員もいる。前出の30代の営業職の社員が言う。

「代理店の仕事は考えることも多く、それなりにハードな仕事だからこそ、給料もいい。30代前半で年収1000万円を超える人もいます。ただそれは、年俸制の博報堂と違って、残業代がたっぷりつくことで成り立っている。

大抵の人は年収の4割ほどがボーナスと残業代だと思います。改革がずっと続いて残業代が減ったままだと、住宅ローンの支払いにも支障が出ると嘆いている社員もいます」

 

では一方、広告を「出す側」であるクライアントは、こうした電通の変化をどう受け止めているのか。あるメーカーの宣伝担当はこう話す。

「電通とは一緒に製品のプロモーションをしています。もともと無理難題を吹っかける、という感じではありませんでしたが、深夜にメールのやり取りをすることはありました。ですが働き方改革以降、『すみません、終業時間が厳しくて』と言われ、22時以降のメールはかなり減りました。

別の社員の担当ですが、博報堂も22時以降の仕事がNGになり、かなり深夜のやり取りが減ったようです。時代の流れなので仕方ありませんが、広告代理店も変わっていくのだなあという思いです」

かつて電通のクライアント企業の担当者だった男性は、電通が置かれた状況の難しさを語る。

「電通が『ブラック企業批判』を受けるのは、広告を出す側としては印象が悪い。最近ではこうした問題がネットで炎上して不買運動につながりますから。電通への批判が自分の会社の商品に飛び火したらたまりません。

一方で、わがままな話ですが、クライアントとしては、これまで通り『何でもやってくれる電通さん』を続けてもらいたい。電通の経営陣はこのジレンマに苦しんでいると思いますよ」

電通の、社員の心構えを説いた「鬼十則」はよく知られている。曰く、「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは…」「難しい仕事を狙え、そしてそれを成し遂げるところに進歩がある」等々。同社は、死に物狂いで仕事をし、No.1代理店の地位を築いてきた。

「電通は『クライアント・ファースト』で形づくられてきた会社です。広告業界の雄となれたのは、クライアントの思いを何でも叶えていたから。『明日までに資料をつくってきて』といった要望も、『ハードワークもこなします』と言って受け入れてきました」(元電通社員の柴田明彦氏)

「ある媒体にクライアントの不祥事の記事が出そうになれば、部長級、局長級が媒体に出向いて土下座してでもそれを止めるということもあった。是非はともかく、そこまでしたから今の電通があるのは間違いない」(元電通社員の藤沢涼氏)

しかし、そうした気風は改革によって失われつつある。働き方改革は企業の文化を壊す一面を持っており、そこを乗り越えられるかどうかが問われることになる。――実はほかの面でも電通の改革は、同社のこれまでの強みに、将来にわたってジワジワと影響を与え続けるだろう。

それは、働き方改革の延長として、社員に対する「管理」が厳しくなっていることによるものだ。

「出退勤記録に残す業務内容を、プレゼン資料作成なのか、営業先訪問なのか、細かく書き込まなければならなくなりました。行動を会社に管理されているようで気持ちのいいものではありません」(前出・40代の営業職)

「週に一度ノー残業デーがあって、17時30分になると局にいる人事担当の社員が『今日は残業なしだぞー、帰れよー』と言ってきます。

帰りやすい雰囲気をありがたく思うこともありますが、仕事がたくさん残っている時は、もういい大人なんだから、自分の働き方は自分で決めさせてくれ、と思ってしまう」(前出・30代の営業職)

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日本全国で「働き方」が問われる中、電通は働き方を大きく改革する方向に舵を切った。いままでのやり方にNOを突きつけたことで起きた混乱は、まだまだ収まりそうにない。

(「週刊現代」8月12日号より)