「加計問題」と「ロシアゲート」あまりに酷似したフェイク戦略

世界は「印象操作」の時代に入った
海野 素央 プロフィール

⑵キャラクター・アサシネーション(人格攻撃)

トランプ大統領に限らず、昔から米大統領選挙においては、相手候補に対する「キャラクター・アサシネーション(直訳すれば『人格殺害』となりますが、日本語には的確な訳語がないので、人格攻撃としておきましょう)」が重要戦略の一つでした。これは、問題の本筋とは関係の薄い事実を過大に取り上げるなどして、相手方を批難し、自陣営にとって有利な世論を形成しようとする戦略です。

有名な前例が、ジョージ・H・W・ブッシュ副大統領(共和党)とマサチューセッツ州知事のマイケル・デュカキス氏(民主党)が戦った、1988年の米大統領選挙です。

演説するブッシュ氏(左)とデュカキス氏(Photo by gettyimages)

はじめ、選挙戦を優位に戦っていたのはデュカキス知事でした。しかし、あるテレビCMの放映が始まったことを境に、デュカキス知事の支持率は急速に低下してしまいました。ブッシュ陣営が流したそのCMは、殺人を犯して当時終身刑に服していた、アフリカ系のウィリー・ホートン服役囚を扱うものでした。

デュカキス知事の地元マサチューセッツ州はリベラルな州で、囚人の仮釈放制度がありました。その制度に基づいて同州の囚人だったホートン服役囚も仮釈放されたのですが、その最中に、彼は南部のメリーランド州で強姦の罪を犯したのです。

ブッシュ陣営はこの事件を最大限に利用しました。テレビCMでホートン氏を繰り返し扱い、彼の再犯はデュカキス知事のせいだ、という世論を形成しようと試みたのです。そして、まんまと「デュカキス知事は『犯罪に弱い』(=弱腰である)」「米国を担うに値しない、弱いリーダーだ」というイメージを作り上げることに成功しました。結果は無論、ブッシュ氏の勝利でした。

 

トランプ大統領の例を挙げてみましょう。2016年の米大統領選挙期間中、同大統領はヒラリー・クリントン候補(当時)が国務長官在任中、公務に私的メールアドレスを使っていた問題を取りあげ、人格攻撃に結びつけました。クリントン候補が3万3000通のメールを削除した点を突き、有権者に「ヒラリーは何か隠しているのではないか」という不信感を持たせようと、「いかさまヒラリー」と呼んだのは有名です。

さらにトランプ大統領は今回、ロシアゲート疑惑の捜査を行っていたジェームズ・コミー前連邦捜査局(FBI)長官に対しても人格攻撃を行いました。前長官を「機密漏洩者」「頭がおかしい奴」「目立ちたがり屋」「卑怯者」と次々に攻撃し、彼の社会的評価を貶めようとしたのです。その意図は、「トランプ陣営とロシア政府の共謀の有無」という本当の争点から米国民の関心をそらすこと、並びに前長官による捜査の信頼度を低下させることでした。

ご存知の通り、加計学園問題においても人格攻撃が行われました。前川喜平前文部科学省次官が「出会い系バー」に出入りしていた件に関して、菅官房長官は記者会見で取り上げ、「教育行政の最高責任者が店に出入りして、かつ女性に小遣いを渡すことは考えられない」とかなり強い口調で批判をしています。しかし事実関係がどうあれ、これが基本的に前川氏個人の問題であり、加計学園問題の本筋ではないことは明らかです。

こうした情報の流布は、「安倍首相、昭恵夫人、さらに首相側近及び加計孝太郎理事長が連携して岩盤規制に穴を開けようとしたのか」「その際に便宜供与があったのか」「本当に『加計学園ありき』で獣医医学部新設が進んだのか」といった論点から国民の目をそらし、前川氏個人の人格に焦点を当てるという意図があります。