日本には「教育無償化」が本当に必要なのか? 徹底図解で考える

「勘と経験」で政策を決める危うさ
畠山 勝太 プロフィール

さらに、女子教育には男子教育には見られない次世代の教育水準を向上させるという外部性が存在するのは先に言及した通りだが、子供の健康面についても、母親の教育水準が高まると低体重出生児比率や子供の肥満率に改善が見られる。

このように、女子教育の拡充は教育・健康面を通じて次世代の人的資本投資水準を向上させることから、赤字国債が「次世代へのツケ」であるなら、女子教育は「次世代への遺産」だと言えるだろう。

日本の「教育投資」が抱える問題点

このように、教育投資には高いリターンが見込める分野が存在する。では、日本の教育状況はこれに合致したものとなっているのであろうか? 教育段階別にアクセスや質の状況がどのようになっているのか簡単に見ていこう。

まず就学前教育であるが、日本の就学前教育の就学率は90%を超えており、アクセス面に大きな課題を抱えているわけではない状況にある。しかし、就学前教育の、他国や他の教育段階と比較した相対的な質は決して高いとは言えない。

まず、図3が示すように教員一人当たり生徒数が多過ぎる。

日本でもしばしば少人数学級政策が話題になるが、例えば予備校や大学なら100人以上も入る教室でのクラスを安くはない授業料を支払って受ける人たちもいるが、幼稚園・保育園や小学校低学年で100人以上を相手にした活動はあり得ないだろう。

このことが直観的な説明になるが、教員一人当たり生徒数は、子供の年齢が低いほどその影響力を増す。それにもかかわらず、日本の就学前教育における教員一人当たりの児童数は先進諸国の中では群を抜いて多い。

これに加えて、図4・5が示すように小学校以降の教育段階の教員と比較して、日本の就学前教育の教員の準備教育水準と勤務年数は明確に低い。

就学前教育段階にある子供の発達の複雑さや、小学校以降の教育段階と比較して教育・保健・衛生など就学前教育段階はセクター横断的な複雑さがあることを考慮すれば、就学前教育段階の教員の教育水準や経験年数がそれ以降の教員よりも低くて良いはずはない。

 

日本の基礎教育段階(小学校から高校まで)は、高校への進学率・中退率も諸外国と比べて良好で、アクセス面に大きな課題を抱えているわけではない。

そして、ゆとり教育世代などと世間では揶揄されることもあるが、PISAやTIMSSなどの国際学力調査で日本は常にトップクラスの成績を残しており、ICTの活用などいくつかの課題はあるものの、基礎学力面でもこの段階には大きな課題が存在しているわけではない。