近年の犯罪統計は急増減という異常な変動を記録している。この背後には、警察予算の増減を左右するルールの変更があった(参照「予算獲得ルールと連動する刑法犯認知件数」)。その変更は、何気なく為された可能性もあるのだが、より重大な刑事政策の大変革を先取りするものであったことを指摘しておきたい。
先に、犯罪統計についておさらいしておきたい。
警察庁が集計し毎年犯罪白書冒頭図に掲載される一般刑法犯認知件数(交通事故を除いた刑法犯)のグラフを見てみると、2002年のピーク前の増加ペースもすごいが、ピーク後の減少ペースも早い。
とりわけ注目しなければならないのは、ジグザグにならずに毎年「順調に」増減していることである。図1を参照してほしい。このスムーズさは人為的な影響の懸念を抱かせるものである。
警察統計である犯罪認知件数が、犯罪の発生件数を表すわけではないことは、犯罪統計の見方の初歩として習うことである。
残念ながらこれは、よく間違われている。
日本の戦後直後は、治安は大荒れだったが、統計上、凶悪犯は今の数倍認知された一方で、暴行など軽微な犯罪はほとんど認知されなかった。軽微な犯罪には警察の手が回らなかったのであろう。
その結果、凶悪犯と軽微な犯罪の合計犯罪認知件数は、それほど多くなかった。これでもって、戦後直後の犯罪発生件数は、たいしたことがなかったと解釈してはいけない。
もっと極端な例をあげれば、わかりやすい。
警察力が壊滅するほどの治安悪化状況では、犯罪認知件数はゼロに近づく。他方、警察力が強くなって、全ての軽微な犯罪まで対処できると犯罪認知件数は増加する。
犯罪統計は、実は第一に警察の働き具合を示すもので、犯罪者たちの活動の多寡を示すものではない。戦後、警察官の数は一貫して増加していることを念頭において犯罪統計は見なければならない。