<ネット右翼十五年史>なぜ、彼らは差別的言説を垂れ流すのか

日本の「空気」を作る人々の研究
古谷 経衡 プロフィール

それが根拠に、ゼロ年代中盤ごろから「行動する保守」と自称するネット発の運動団体が結成され、街に繰り出し、嫌韓(嫌在日コリアン)・反中の怪気炎を上げる各種示威的デモをくり返すようになった。無論、これらはそれに反対する人々の社会的圧力によって2013年頃より急速に下火になったのだが、ともあれこうした事実は、ネット右翼が上記「インターネット上で……」の範疇を遥かに超える実態を伴うようになったことを示している。

 

また、「右派的・保守的な世界観を開陳……」という部分にも、あまりにも広いグラデーションがあって一緒くたにできない。

広く共通するのは「嫌韓(嫌在日コリアン)・反中」という対外姿勢であるが、例えば経済政策についてはネット右翼の中でも意見が細分化され、それぞれがまるで性質を異にしている。

かつての自民党田中派→平成研が推し進めた所謂「土建国家」を良とし、「保護貿易」「移民反対」を至上の価値と唱える国家社会主義的な勢力がいれば、一方かつての自民党福田派→清和会→小泉純一郎政権に代表される新自由主義的な構造改革路線、小さな政府を良とするものまで幅広い。そして彼らは広義の「ネット右翼」として一つにくくられながらも、実際にはお互いに対立し、反目する関係にある。

さらに、皇統に関する見解でも内紛は絶えない。天皇の後継者に「万世一系」の神話を当て嵌め、男系男子に頑なに固執する一派もあれば、他方で女系天皇(女性天皇にあらず)を容認する一派、さらには女性宮家の創設に肯定的な一派も存在する。畢竟こちらも相互の罵詈雑言の応酬が絶えないのだ。

このように、もはやネット右翼を一言で定義するのは困難なほど、ネット右翼誕生からの十五年にわたる年月は、良い意味でも悪い意味でも彼らを「多様化」の方向に向かわせた。

受け売りし、寄生する

繰り返すように私は、ネット右翼とは「保守系言論人や文化人の理論に寄生する烏合の人々」であると定義している。「保守系言論人や文化人」とは、保守系の大学教授や、保守系の論壇誌等々に登場する保守界隈の常連たちである。或いはそこには現職・元職を問わない国会議員経験者等も含まれる。要するにかいつまんで言えば、保守界隈の著名人、有名人ということである。

著名な人物を例示してみると、たとえば内外共に「保守系言論」として認知されているジャーナリストの櫻井よしこ氏。氏の主張は様々だが、慨すると「親米=日米同盟重視、反中・嫌韓、公人の靖国神社参拝賛成、東京裁判史観打破、道徳教育の復活、原発推進、皇統は男系男子で女系は容認せず」となろう。

こういった氏の思想をそのまま受け売りするのがネット右翼である。曰く「櫻井よしこ先生が言っていた」ということを理論的支柱として、ネット空間で櫻井氏の言と同じことを、簡素化して繰り返すのだ。