6月20日に本誌連載エッセイ『るるらいらい日豪往復出稼ぎ日記』を 上梓した小島さん。仕事、夫婦、書くこと、子育て…… 人生の大先達であり今なお第一線で活躍されている 佐藤愛子氏に、人生の奥義をお聞きした。(構成・文/佐久間文子)
ご主人は何で働かないんです?
佐藤 ご本、拝読しました。とってもいいですよ。軽妙で面白くて。「次男が熱を出した」、書き出しが自然にすらっと出てきているの、なかなかのものです。
小島 佐藤さんにそう言っていただいて、こんなに光栄なことはありません。
佐藤 小説もお書きになってるそうでいろいろご活躍ですけど、日本とオーストラリアの、行ったり来たりだけでも大変じゃないですか?

小島 夫、子供を養うために行き来しています。
佐藤 ご主人は何で働かないんです? 働くのが嫌になったの?
小島 彼は制作会社でテレビディレクターをしていたんですけど、五十歳が目の前に見えてきたとき急に、「ぼくはこのままテレビディレクターの人生しか知らずに終わっていいのか」と思ったみたいで、会社を辞めて来ちゃったんです。
佐藤 なかなか、いいじゃないですか。そのときはどうなさったんですか? 怒ったの?
小島 その前に、私自身が大手放送局を辞めておりまして、そのときは夫が応援してくれたので、今度は私が応援する番だと最初は思ったんです。だけど、一人で働く人生というものを想定していなかったために、だんだん、「男のくせに仕事を辞めるなんて」とか、「私がこんなに苦労してるじゃない」とか、夫に対して恨みごとを言ってしまい、そんなことを言う自分にも失望しました。
私は、男は稼いでなんぼ、という思い込みに随分、囚われていたんだな、って。
佐藤 でもそのとき、張り切ってたんじゃないですか?
小島 私がですか? 予想外のことが起きて、いままで考えてもみなかったことを考えるきっかけになり、それで外国で子育てをするということを思いついたので、張り切ると言えば張り切ってたんでしょうけど。
佐藤 日本で大学まで進学させるのと、オーストラリアで子育てするのと、どちらがお金がかかるか計算して、オーストラリアのほうが日本よりもつらくないから選んだ、というのを読んで、これはすごい人だな、と。私にはそんな計算できないもの。
小島 大体の概算ですよ。
佐藤 どうやって計算するの? 生活費から物価から全部入れるんでしょ?
小島 そうですね。私はテレビの仕事もしてますので東京からは動けない。じゃあずっと東京にいたまま子どもを育てるとしたら、息子たちはのんびりしていますから、のんびりした私立に入れたときの学費はいくらか。家が狭くなって引っ越したときの家賃は、って積み上げていきました。
佐藤 そういうところ、なかなか主婦感覚がおありになるじゃないですか。
小島 お金のことが心配で。
佐藤 これは、私とは全然異質な人だと感心しましたよ。
小島 佐藤さんはお金のことや家計のことは全然お考えにならない?
佐藤 考えないというより、考えることができない頭なんですよ。税金も、もっと利口なことをやればこんなに払わなくてもいいかもしれないけど、その方法がわからないし、研究するのも面倒くさい。それでいままで生きてこられたわけですから。
小島 借金(注・当時の夫の会社が倒産してできた負債など)も抱えて。
佐藤 あれも、払うあてがないのに勢いでね。借金取りに早く帰ってもらいたい一心で肩代りのハンコを押してたら、どんどん増えていったの。
小島 そうなんですか……!?
佐藤 そうなんですよ。
小島 え――! それはすごい。
佐藤 だから小島さんが私に相談したいと聞いて、何を相談するのかなって(笑)。かえって混乱するんじゃないかしら。