子供のころから何度も「性的虐待」に遭った女が、我が子を捨てるまで

育てられない母親たち➀
石井 光太 プロフィール

「育てられない子を産むな」という声もあるが

弓枝は、次男を手放したことを「正解だった」と話している。

「私の精神状態は今も落ち着いていません。小1の息子の発達障害はひどくなる一方で、私も毎日パニックになって怒鳴り散らし、手を上げています。虐待だとわかっていますが、止めることができないんです。次男を手放して正解だったと思っています。私のもとにいるよりは、平穏な家庭で育った方がずっとよかったはずです」

話を聞く限り、彼女が子供を捨てた背景には3つの重要なポイントがある。

 

1つ目は、弓枝の母親との関係である。彼女は母親に求められるままに「完璧ないい子」を演じつづけてきた。おそらくそれが家庭で生き抜く方法だったのだろう。

2つ目は、性的虐待である。これによって彼女が心の奥に爆弾を抱えることになったのは明らかだ。

そして3つ目が、息子の発達障害である。

それまで弓枝は「完璧ないい子」を演じてきた。だが、手に負えない子供が現れた時、取り繕っていた自分が崩壊した。そして胸に秘めてきた性的虐待という爆弾が爆発し、男性に対して極度の恐怖心を抱き、パニックになって暴力をふるうようになったのだ。

弓枝は語る。

「私は男の人をまったく信じていません。嫌悪の対象でしかない。絶対に暴力をふるう人間としか考えられないんです。

長男は今小1ですが、あと数年すれば性欲を持つ大人になる。私にはそれが恐怖なんです。だから今後もどんどん暴力がエスカレートするんじゃないかって自分でも自分が怖い。

今は夫に対しても同じです。あれだけやさしくしてくれているんですが、どこかで信用できないんです。大人の男2人が家にいると考えるだけで、私は将来が見えません。かといって、この精神状態で夫と別れて生きていくことなんてできない。もちろん、母親に助けを求められるわけもない。自分でもどうしていいかわからないんです」

このような話を聞くかぎり、彼女は40歳をすぎてもなお、性的虐待の呪縛に囚われているだろう。そしてそれが子供への虐待、そして育児放棄につながっているのだ。

彼女は自らのことを「育児ノイローゼ」と表現していた。だが、そうなった背景には、一言では終わらせられない深い問題が横たわっている。そこに光を当てなければ、なぜ彼女が息子に暴力をふるい、次男を捨てたのかということはわからない。

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彼女は言う。

「世間では、育てられないなら産むなという意見があります。でも、育てられなければ、育てられる人に幸せに育てててもらえればいいと私は思っていますし、今もそれはまちがいじゃなかったと思っています」

その意見が、せめてもの慰めのように聞こえた。次男は関西のある夫婦に引き取られ、幸せに育てられているという。

「親子愛」という粉飾が家族を追い詰める