子供のころから何度も「性的虐待」に遭った女が、我が子を捨てるまで

育てられない母親たち➀
石井 光太 プロフィール

弓子の男への憎しみは、息子だけでなく夫にも「逆DV」という形で向けられた。夫であっても、家に男がいることが息苦しくてならず、彼が息子の面倒を見ないとか、話を聞いていないというだけで、パニックになり、怒鳴り散らして手を上げた。

一度、夫を床に押し倒し、近くにあった棒で顔のあたりを殴りつけたことがあった。すると、その先端が首にざくりと刺さって、大量の血が噴き出した。夫が慌てて救急車を呼んで助かったが、不審に思った医師が警察へ連絡。後日警察が捜査にやってきた。やさしい夫は「僕が自分で自殺未遂をしたんです」と言って弓枝をかばったという。

彼女はこの時のことを言う。

「パニックになっている時はわけがわからなくなるんです。夫の首を切った時も、血だらけになっているのを見てハッと我に返った感じ。その時になって、何やってんだろって思うんですが、暴れている間は錯乱状態なんです」

解離性障害のように、頭のスイッチが変わってしまっているのだろう。だから、自分では抑制がきかず、毎日のようにほとんど理由もなく子供や夫に暴力をふるってしまう。

夫はどれだけ暴力を受けても、「子供が第一」と言って離婚しようとしなかった。

 

2人目の面倒など見られない

弓枝が二度目の妊娠をしたのは、39歳の時だった。わかった瞬間、弓枝は絶望の底に叩き落された。長男を育てることができない自分が、2人目の面倒など到底みられないと思ったのだ。

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「病院で検査を受けた時、お腹の子供が男の子だとわかりました。聞いた瞬間に、もう無理だと思いました。男3人に囲まれて生きていくことなんて怖くてできません。

中絶という選択はありませんでした。学生時代に中絶手術を受けて以来、ずっと殺してしまった子供たちに謝りつづけてきた。あんなつらい経験は二度としたくなかったんです。

それで、次男を産んで特別養子に出すことに決めました。殺さずに済むし、合法的に手放すことができると思ったんです」

弓枝はインターネットで特別養子を支援する団体を調べて連絡した。1つ目は「精神を病んでいる母親からの依頼は受けられない」と断られ、2件目は「自費で九州の施設まで来るように」と言われた。

3つ目の「Babyぽけっと」だけは無条件で引き受けてくれた。それで、彼女は地元の病院で次男を産み、家に連れ帰ることなく退院と同時に特別養子に出したのだ。