子供のころから何度も「性的虐待」に遭った女が、我が子を捨てるまで

育てられない母親たち➀
石井 光太 プロフィール

「いい子」でいることを強いられて

その後、弓枝は暗い過去の記憶に蓋をし、中学、高校時代をすごす。

母親はそんな娘の苦しみを想像すらしていなかったようだ。日中は市内のスーパーでパートをし、夜は弓枝をアパートに置いてスナックに働きに出た。

そんな中でも、母親は1人の女性として奔放に振舞った。夜はいろんな男に送り届けてもらい、休日は厚化粧をして楽しそうにデートに出かける。娘の前で男の愚痴をこぼすことも少なくなかった。夜中に独りぼっちで心細い日は、アパートの階段にすわって朝まで母親の帰りを待った。

 

このように母親は好き勝手していたにもかかわらず、弓枝には「いい子」であることを強いた。家事をこなし、勉強もトップでなければ許さなかった。弓枝はその期待に応えなければ捨てられるのではないかと、懸命に家でも学校でも優等生を装った。先生からは絶えず褒められ、成績も1位、2位を争うほどだった。

見た目にもまじめな弓枝だったが、なぜか中学生以降も性被害に遭いつづけた。もっとも多かったのが、電車での痴漢だ。1車両に数人しか乗っていない田舎の電車なのに、男がわざと横にすわってきて制服の中に手を入れて体をまさぐるのだ。

ある日、弓枝は怖くなって電車から降りた瞬間に走って逃げようとした。すると、男も全速力で追いかけてくる。なんとか電話ボックスに逃げ込んだが、男は電話ボックスを叩いて「開けろ! 開けろ!」と怒鳴り散らす。弓枝は泣きながら母親に電話をして叫んだ。

「お母さん、助けて。お願いだから早く来て!」

助けが来るまで、気を失うほど恐ろしい思いをした。

大学は、千葉大学の看護学部に進んだ。母親から「お金がないから私大には行かせられない」ときつく言われていたので、猛勉強して国立大学への入学を決めたのだ。

1年の頃は、仕送りが足りず、都内の叔父と叔母の家に下宿させてもらっていた。だが、今度はその叔父から性的いやがらせを受けた。風呂に入っていればのぞかれ、寝ていれば布団の中に入ってきて体をまさぐられる。部屋に無理やり引きずり込まれて強姦されそうになり、悲鳴を上げてかろうじて逃げ延びたこともあった。

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ちなみに、彼女は秀でて美しいわけでも、スタイルがいいわけでもない。むしろ、地味で暗いイメージさえある。なぜここまで性被害に遭うのか。もしかしたら幼い頃に性的虐待を受けた傷が、加害者たちの目に透けて見えるほど表出していたのではないか。

大学1年の終わりに、彼女は一人暮らしを決意してその家から離れる。当時のことを弓枝は次のように語る。

「あの当時の私は男性を怖がる一方で、ものすごく孤独でした。誰も自分のことをわかってくれない。みんなが自分に害を与えると思っていたんです。でも、心が弱くて男性嫌いになることもできませんでした。むしろ、恐怖や寂しさを紛らわすように男性に依存した。

顕著だったのが、大学1年から2年の時に付き合っていた男性でした。私は24時間傍にいなければ落ち着かなくなり、ストーカーのようになりました。1日に100回以上連絡を取ったり、どこにいるのか知りたくていそうなところで何時間も待ち伏せしたり。その男性なしでは生きていけないような気持になったんです」