「冷房をつけると地球が暖かくなる」のは一体なぜか?

時間が前に進む理由を考えてみると…
松浦 壮 プロフィール

時間は可能性の方向に進む

これはものすごく単純化した例ですが、地面に転がったボールが突然飛び上がらないのはこれと同じ理由です。

ボールが地面に落ちて止まるという現象には、ざっくり言って、1兆のそのまた1兆倍以上という個数の原子が絡みます(アボガドロ数というやつです)。これはオセロ盤(64マス)の比ではありません。

ボールが自然に飛び上がるためには、それだけの数の原子がたまたま協調して、エネルギーが一ヵ所に集まる必要がありますが、オセロ盤の例を考えると、これがどれほど絶望的な可能性かわかります。

砂をぶわ~っと撒いたら、たまたま精密な日本地図が出来上がるようなものです。全人類の中から1人に当たる宝くじがあったとして、自分が100回続けて当選する方が圧倒的にあり得る程です。

ボールがバウンドして止まるという現象は目にしても、その逆を目にしないのはそのためです。身も蓋もない言い方をするなら、物理法則には反していないけど、有り得なすぎて見慣れていないから不自然に感じるのです。

これはあらゆる場面に通じます。私たち自身が数え切れない程の原子で構成されて、数え切れない多くのものと関わり合っている以上、物理現象は集中したものがバラバラになる方向に進行します。

これが「時間の矢」です。

時間が巻き戻せないのは、時間そのものの性質ではなく、可能性の問題ということです。詩的な言い方を許してもらえるなら、時間は可能性の方向に進むのです。
 
改めて問います。どうして時間は巻き戻せないのでしょう?

〔PHOTO〕iStock

時間が巻き戻せない理由

それは、時間を巻き戻すには、ひとたびバラバラになった大量の原子(正確には素粒子)を整然とした状態に戻すという、絶望的なまでの可能性の差に逆らう調整が必要だからです。この調整が自然に起こることは、確率的に考えてあり得ません。

では、人為的に行うことが出来るかというと、現実は甘くありません。

忘れてはいけないのは、情報は物体に記録するものであるということ、そして、観測や情報の記録・消去には必ず労力が必要であるということです。

これは「熱力学第二法則」と呼ばれる古典的な法則ですが、情報科学の分野の最先端でもあります。完全な証明には至っていませんが、かなり一般的に成り立つ事実です。

 

完全な時間反転に必要な情報は膨大です。原子の状態を観測し、情報として記録し、必要に応じて記録を消去するというプロセスには大変な労力が必要で、その結果、記録装置とその周辺に、巻き戻したことによって生み出される整然さよりも多くの乱雑さを生み出します。

これは、「巻き戻し装置」まで含めた、世界全体の時間反転が実行不可能であることを物語っています。

余談ながら、SFなどでよく登場する、「パラメータとしての時間を逆に向ける」という操作は、実質的にここで言っているような操作ですから、熱力学第二法則が破れていない以上、やはり実行不可能です。時間は運動と不可分なのです。