「冷房をつけると地球が暖かくなる」のは一体なぜか?

時間が前に進む理由を考えてみると…
松浦 壮 プロフィール

逆回しが不自然な現象の共通点

例えば、先程の動画をボールが地面に落ちるところまで撮ると、逆回しは途端に不自然になります。地面に転がっていたボールがおもむろに動き出し、細かなバウンド繰り返すうちに勢いを増して、最後には画面の上に消えて行く。誰がどう見ても逆回しです。

他にも、グラスの水がひとりでに波打つことはありませんし、割れたガラスは自然には元に戻りません。自然界の出来事の大多数に逆向きの現象が見当たらないからこそ、私たちは時間に「巻き戻しが出来ない」という性質を見て取るのです。

「物体の運動法則は時間の逆回しを原理的に禁止していない」とは一体なんなのでしょう? 天下の物理学は何か考え違いをしてはいないでしょうか?

ですが、よくよく冷静に考えてみると、逆回しが不自然な現象にはひとつの共通点があります。

それは、「膨大な数の要素にエネルギーが拡散している」というものです。

ボールのバウンドは良い例です。ボールはバウンドする度に勢いを失います。このエネルギーは、地面を構成する原子の振動や、地面に当たった時に生じる音になります。

〔PHOTO〕iStock

ボールが持つエネルギーが周りの原子に拡散されるからこそ、ボールは最終的に止まるのです。この現象に参加しているのは、数え切れないくらい大量の原子であることがわかると思います。

グラスの水に生じた波が静まっていくのも同様です。水がグラスの表面に沿って動くと、波のエネルギーの一部がグラスを構成する分子に渡され、熱エネルギーとしてグラス全体に拡散します。放っておくと水面が静かになるのはそのためです。一方、空中にいるボールは(空気との摩擦を無視すれば)エネルギーを失っていません。

 

「可能性の数」を考えてみる

皆さんも想像してみて下さい。

ガラスが砕けるときのように、拡散するものがエネルギーではないこともありますが、逆回しが不自然で、原理的に起こり得ないように見える現象は全て、何らかの意味で、集中していた何かが多数の要素に拡散しているはずです。

集中した状態と散らばった状態の違いはなんでしょう? それはズバリ「可能性の数」です。

一例として、白黒の石で埋め尽くされたオセロ盤を想像して下さい。8×8のマスには白と黒がランダムに並んでいます。ここでコインを1枚投げます。もし表なら左上角にある石を裏返し、裏ならその石はそのまま放置します。

同じことを全ての石について繰り返したとしましょう。コインを64回投げ終わったあとで、オセロ盤が白または黒で埋め尽くされている確率はいくつでしょう?

高校の数学に出て来そうな問題ですが、答えは約922京分の1になります(1京は1兆の1万倍です)。ちなみに、宇宙が生まれてから今まで大体10京秒くらい経過していますから、1秒に1回この操作を行ったとしても、オセロ盤が一色に埋め尽くされるのは宇宙が100回近く繰り返してようやく1回起こるかどうか、という確率です。

「オセロ盤の石の全てが揃っている」という状態は、あると言えばあるのですが、「オセロ盤の石がバラバラになっている」という状態に比べて圧倒的に数が少ないのです。

これが、「オセロ盤が一色で埋め尽くされる」という現象が奇跡に近い理由です。

仮に最初に揃っていたとしても、オセロ盤はあっという間にバラバラになって、2度と元には戻りません。逆に、奇跡的に色が揃うようなことがあったとして、そのときの様子を動画に撮ったら、多くの人はそれを「揃っていた石がバラバラになる動画」の逆回しだと感じるでしょう。