放送開始30年『世界の車窓から』作曲家の世界観はこうして作られた

心に沁み、血肉となったこの10冊
溝口 肇

私自身は9割が音楽によって生かされているんですが、久保さんもほとんど「羆撃ち」によって、人間が形成されている。一つのことを突き詰めていく職人気質に、共感する部分がとても多かった。読み終わる頃には自然や動物への深い愛情に感動して、涙が止まりませんでした。

物語における独特な世界観に惹かれたのは、『セロ弾きのゴーシュ』と『星の王子さま』です。

セロ弾きのゴーシュ
星の王子さま

『セロ弾きのゴーシュ』は中学生の頃に読みました。やはり私と同じチェロ弾きの話ということもあって、未だにコンサートのトークではこの作品について語ったりします。宮沢賢治は決して明るくはないけれど、作品全体が帯びる幻想的な雰囲気がすごくいい。

また、『星の王子さま』もファンタジックな世界観が気に入っています。例えば、「大切なものは目に見えない」など印象的なメッセージが多く綴られているんですね。

いい本というのは、短いセンテンスにも心に残る言葉があります。そんな心に沁みた言葉の数々は、私の血肉となって、作曲をする時のインスピレーションに繋がっているのだと思います。

(構成・文/大西展子)

▼最近読んだ一冊

イリュージョン「複葉機で空と草原を駆け巡る、おかしな救世主と飛行機野郎の青春ファンタジー。次元を超越した不思議な二人が旅をしながら小さな奇跡を目にしていくのですが、どのページを開いても必ず心に沁みる言葉があります」
 

溝口肇さんのベスト10冊

第1位『かつて…
ヴィム・ヴェンダース著 宮下誠訳 PARCO出版 入手は古書のみ
30年以上にわたり、世界の様々な場所に出かけた著者が旅の中で見つけた日常を写真と短文で綴ったフォトエッセイ

第2位『セロ弾きのゴーシュ
宮沢賢治著 角川文庫 520円
楽団のお荷物のゴーシュ。楽長に叱られながらも動物たちとの触れ合いを通し、謙虚さと慈悲の心が芽生えていく

第3位『ナバホの大地へ
ぬくみちほ著 理論社 1500円
ナバホの女性の導きで、ナバホの伝統文化や歴史に触れ、通い詰めた著者が描く出色のノンフィクション作品

第4位『星の王子さま
サン=テグジュペリ著 河野万里子訳 新潮文庫 480円
体裁は児童文学だが、子供の心を忘れてしまった大人に向けての示唆にも富む

第5位『羆撃ち
久保俊治著 小学館文庫 638円
北海道の大地で羆を追う孤高のハンターと猟犬フチとの感動に満ちたノンフィクション

第6位『金閣寺
三島由紀夫著 新潮文庫 630円
「若い学僧が金閣寺の美に魂を奪われ、燃やしてしまう。その狂気に惹きつけられます」

第7位『誕生日の子どもたち
トルーマン・カポーティ著 村上春樹訳 文春文庫 600円
「浮き世離れした少女に魅せられた男の子たちの行動と、悲しい結末が印象的でした」

第8位『坊っちゃん
夏目漱石著 新潮文庫 310円
「反骨精神の強い坊っちゃんを初め、登場人物が多彩。しかも、人物描写が滑稽で面白い」

第9位『きまぐれロボット
星新一著 角川文庫 380円
「発想が素晴らしくて、非常に読みやすい。短い一話一話が濃厚で衝撃を受けました」

第10位『檸檬
梶井基次郎著 新潮文庫 430円
「得体のしれない不安に悩まされている主人公と黄色い檸檬の対比が鮮やかです」

週刊現代』2017年8月5日号より