のん、小出恵介…芸能人と事務所の「契約問題」が起きる理由

音事協「統一契約書」の真実(後編)
田崎 健太 プロフィール

この点について錦織はこう言う。

「現状としてはこの統一契約書をそのまま使うようにという強制力はありません。会員各社の方には、統一契約書についての説明をした上で、『個々の事情がありますから変えることは仕方がありません。しかし一言、声を掛けて欲しい』と言っています。

そしてこうも付け加えています。この契約書は高度な積み木細工のようなものですから、一カ所を動かすと壊れてしまうかもしれない、と」

 

「奴隷契約」と言えるのか?

前述した通り、この統一契約書は一般公開されていない。プロ野球やJリーグの統一契約書は、誰でもダウンロードして手に入れられることと較べると、芸能界の閉鎖性を示しているとも言えるだろう。

音事協の広報担当理事・高木貴司はこう説明する。

「我々の仕事はスターを作ること。例えばの話ですが、どこにでもいるような女の子がプロダクションに見出され、スターになることも決して珍しくない。その過程や裏側を見せちゃいけない。ファンの夢を壊しちゃいけないという考えが長く続いてきたのです」

 かつて近松門左衛門は「虚実皮膜」という言葉を使った。事実と虚構がせめぎ合う微妙な狭間に、芸術上の真実があるという意味だ。

日本の芸能プロダクションは、この虚実皮膜を上手く行き来しながら、スターを作ってきた。決して客に「バックヤード」は見せなかった。そうした中で、アーティストがプロダクションと対立し、ファンにも真相が知らされぬまま消えてゆく、という事態も何度も起こってきた。

一方――。

芸能界にはプロダクション側だけに有利な「奴隷契約」がはびこっている、という短絡的な意見にも与することはできない。

音事協の統一契約書を使っている限り、という前提はつくが、その契約内容は決して不自然でも前近代的でもなく、むしろよく練られている。契約を交わすアーティストやタレント本人、あるいはその親族が精査し、理解した上でサインするのなら、妥当なものといえる。

ただし、プロダクションによっては、そもそも契約を結んでいないことや、統一契約書には書かれていないような「不利な条件」がつけられていることもある。芸能界は大きな金銭の動くビジネスの世界である。当事者が契約書の有無はもちろん、その内容を理解することは当然のことだ。

「タレントがかわいそう」という感情論だけで考えると、物事の本質を見誤ることになるだろう。 

                        (文中敬称略。この章終わり)