のん、小出恵介…芸能人と事務所の「契約問題」が起きる理由

音事協「統一契約書」の真実(後編)
田崎 健太 プロフィール

以上のような、統一契約書に記されている数々の規定の背景には、音事協が、プロダクションとアーティストの関係を「雇用契約」ではなく「業務提携契約」であると定義していることが関わっている。

「雇用」は雇い主の力が強い、主従関係。一方、「業務提携」は対等。アーティストという「個人事業主」、そしてプロダクションの双方が誠意を持ってそれぞれの業務を遂行することが、この契約の目的なのだと錦織は説明する。

「統一契約書を作成の前提として、プロダクションとアーティストは平等な関係であるとしました。そして、どちらかが一方的に有利になるような要素は排斥しました。そうした契約は短期的にはともかく、長続きしない」

ただし、平等とはいえ「包括的専属契約」の条件下では、アーティスト側にとって、プロダクションが自分の意思に反する行動をとった場合、ほぼ身動きがとれない。そのため、契約期間が重要となる。

 

契約期間「自動延長」の理由

統一契約書では契約期間の項目は空欄になっている。

「当初は契約期間の上限も書き込もうと思ったのですが、当然、プロダクションによってそれぞれの事情がある。ただ、あまり長期間にしないようにと会員各社にはお話ししています。

長期拘束することによって、アーティスト、プロダクション側の双方に選択の自由が奪われる。アーティストの側はもちろんですが、プロダクション側にとっても、『契約期間中はこれだけの報酬を保証する』という契約を結べば、義務を負うことになる」

基本的に契約期間は自動延長される。この自動延長について、第19条(契約の期間)ではこう規定している。

〈2.甲又は乙のいずれかが、前項の期間の満了する○ヶ月前までに、契約を更新しない旨の書面による通知をしないときは、この契約は自動的に期間満了の翌日から更に前項と同一期間更新されるものとし、その後の期間満了時においても同様とする。(○は空欄で、プロダクションにより異なる)

3.乙が前項の更新しない旨の通知をした場合であっても、甲は、甲乙間の契約の存続期間を通じて1回に限り、第一項の期間と同一期間の延長を請求することが出来る〉

統一契約書では、アーティスト側が望まない場合であっても、プロダクション側からの契約期間延長を1回に限って認めている。

例えば、能年の場合、2014年6月の契約終了後、レプロはこの期間延長請求権を行使して、2年間の契約延長を行った。

「これは契約書作成の際、最も議論になった部分です。プロダクション側からすれば、売り出すためにアーティストに資本投下をしている。それを回収するためにも、期間延長請求権は必要です。

ただし、請求できる回数は1回に限りました。音事協の統一契約書である以上、世間の批判に耐えうるものにしなければならない。節度が必要だという話になりました。そこで、期間延長請求は1回に限るという規定になりました」

契約期間内の契約解除については、第21条で、プロダクション、アーティスト側のどちらかに契約違反、あるいは〈名誉又は信用を毀損するなどの背信行為があったとき〉などに契約解除が出来るとされている。

統一契約書上は「契約期間満了」後の独立、移籍には何の問題もない。事実、最大手の渡辺プロダクション、あるいはホリプロダクションなどからは多くのアーティストが独立している。

もっとも、芸能界には濃密な人間関係に基づいた「顔」というものがある。大手プロダクションから独立、移籍の際、感情的にこじれた場合には、有形無形の圧力があるだろう。

さらに注意をしなければならないのは、この統一契約書に各プロダクションが改変を加えることがあることだ。