のん、小出恵介…芸能人と事務所の「契約問題」が起きる理由

音事協「統一契約書」の真実(後編)
田崎 健太 プロフィール

能年の代理人は、この「三毛andカリントウ」について「のんが描いたイラストを書籍化・グッズ化し、販売する目的で設立したもの」と説明している。しかし、能年とレプロの契約が音事協の統一契約書に準拠しているならば、契約期間中に「表現活動」をマネジメントするための別会社を無許可で設立するのは明らかな契約違反となる。

 

錦織の「プロダクションはいちいちアーティストに許諾を受けなくてよい」という言葉だけを聞くと、「それはアーティストの権利をないがしろにしているということではないのか」と感じる読者もいるかもしれない。

だが、この「包括的専属契約」には、不測の事態が起こった際のテレビ局、制作会社、広告代理店といった取引先の保護、そしてアーティスト・タレント本人を保護するための意味合いがあるという。

例えば――。

先日、俳優の小出恵介が未成年者と飲酒し、性的行為に及んでいたことが発覚した。これにより、小出出演のドラマは放映中止となり、再撮影となった作品も出てきた。その損害賠償請求額は総額10億円を超えるとされている。

こうした損害賠償を個人が引き受けることは実質不可能だ。また引き受けたとしてもその個人が自己破産してしまえば、それ以上の追及は不可能となり、取引先が大きな損害を被ることになる(注・アミューズは音事協加盟社ではないため、実際に同社と小出の間でどのような契約が結ばれているのかは不明)。

これはプロダクションによる「保証体制」であると錦織は言う。

「国内外の建設事業などの大型プロジェクトに、いざという時の保証のために総合商社が加わるようなものと考えてもらっていい。資金力のある企業がバックアップしていることで、取引先は安心できる」

「専属契約」の功罪

さらに、アーティスト・タレントの権利侵害が起きた場合や、訴訟となった際にも、プロダクションが彼らにかわって対応する規定がある。第15条「権利侵害に対する適切な措置」という条文にはこう書かれている。

〈1.甲と乙は、この契約に基づく甲乙の権利を第三者が侵害したときは、相互の協力により、その権利侵害を停止若しくは排除し、又はその権利侵害による損害を回復するための適切な措置(訴訟等の法的手続きを含む。)を採らねばならない。

2.前項の場合において、甲は、自らの名において、又は乙の委託を受けて、必要な裁判上の又は裁判外の行為をする権限を有する(中略)

3.前2項の場合において、甲は、甲が採るべき措置又は行為の一部を、甲の所属する一般社団法人日本音楽事業者協会に委任することができる〉

所属アーティストに対して、写真の無断掲載や無断販売といったパブリシティ権の侵害があった場合、「個人事業主」であるアーティストが自ら訴訟を起こすのは負担が大きく、リスクもある。こうした場合には、プロダクション、及び音事協が主体となって裁判を起こすことが出来るという規定だ。

実際に2004年には、音事協のとりまとめにより、所属アーティストの写真の無断使用で出版社のコアマガジン社に対して訴訟が提起されている。

同社が発行した『ブブカスペシャルvol.7』に、藤原紀香や深田恭子といった著名な女性タレントのデビュー前の写真が、無許可で掲載された。パブリシティ権とプライバシー権が侵害されたとして、複数のプロダクションに所属するタレントが合同でこれを訴え、損害賠償請求は認められた。

このようなトラブル対応は、「包括的専属契約」であったから出来たのだという。