早稲田大学で起こった「非常勤講師雇い止め紛争」その内幕

悲鳴を上げる大学雇用
田中 圭太郎 プロフィール

大学側の説明では、過半数代表者を選任したい旨と、過半数代表者の候補者7人の名前を書いた文書を、2月14日に非常勤講師の控室にあるメーリングボックスに配布したという。同時に、大学のポータルサイトにも掲示し、2月28日までに回答を求めていたと主張し、そのうえで反応がなかったのだから、手続き上問題ないと主張した。

しかし、このとき大学は入試試験の真っ最中。2月末までは非常勤講師は学内には入れないため、誰もその文書を見ることはできなかった。結局、文書が本当に配布されたのか、サイトに掲示されたのかの確認はとれなかった。

何よりも大学側が「労働者の代表」として指名した7人の候補者は専任の教員ばかりであり、非常勤講師はそこに入っていなかった。大学は「過半数代表者の選任」を恣意的に進めたのだ。

団交の場で組合側がその点を指摘すると、なんと清水副総長は違法性を隠さなかったという。

 

「非常勤講師の就業規程を制定するのに、手続き通りにやろうとした時、これは事実上できません」

つまり、早稲田大学ほどの規模になると、非常勤講師の人数が多いので、法で定められた手続き通りにできない、と公言し、強引な手法について認めたようだ。

ついに刑事告発へ

団交を経てもなお、大学側はあくまで就業規程の導入を譲らなかった。組合側に同席していた佐藤名誉教授は、労働法の権威と呼ばれる清水副学長の師匠にあたる。その佐藤名誉教授が「実際問題として本当に代表者から意見を聴くことができなかったのか。1年延期して、その間に法令に従った手続きをすればいいのでは」と提言したが、大学側は方針を変えず、交渉は決裂。3月25日に就業規程を労働基準監督署に届け出て、すぐに非常勤講師全員に新たな就業規程を郵送したのだ。

ほとんどの非常勤講師は、郵送されてきた文書を見て初めて、自分たちの身に起きたことを知った。その動揺は一瞬で広がったという。

佐藤名誉教授と非常勤講師組合の委員長は、違法行為を承知で無理を通そうとする大学に対して、大きな行動に出る。4月8日、早稲田大学の鎌田薫総長以下理事18人を、労働基準法違反の疑いで東京地検に刑事告発したのだ。

団交の内容を詳細に聞いた大野さんは、早稲田大学内の非常勤講師に今回の事態を周知し、大学と闘う賛同者を集めた。そして6月21日、大野さんら早稲田の非常勤講師17人も、鎌田総長ら理事18人を新宿労働基準監督署に刑事告訴した。

また、それまで早稲田には非常勤講師の組合がなかったが、9月には非常勤講師100人以上が集結し、非常勤講師組合による早稲田ユニオン分会が立ち上がった。大野さんは代表に就任し、連日情報収集や交渉に走ることになる。

日本語非常勤も巻き込んで

闘争の過程で大野さんは、自分たち非常勤講師よりも、さらにシビアな待遇で仕事をしている非常勤の教員の存在を知った。それは、外国人留学生に日本語を教える「日本語非常勤インストラクター」と呼ばれる講師たちだった。

インストラクターは、非常勤講師に先駆けて、契約期間を上限5年とする就業規程を2009年に導入させられていたのだ。2014年3月にはついに5年が経過し、20人が雇い止めとなっていたことがわかった。

しかも大学は、就業規程を作る際、過半数代表者に意見を聞かないばかりか、この就業規程自体を労働基準監督署に届けてもいなかった。これは明らかな違法行為だったが、問題にされることはなかったようだ。おそらくこの時の「成功体験」をもとに、非常勤講師の場合にも同様の手段で進めようと思ったのだろう。

また、大野さんはインストラクターを支援する過程で、彼らの1コマあたりの報酬が非常勤講師の約半分しかないことを知った。自分たちよりさらに弱い立場で働かされたうえに、雇い止めをされていることに驚いたという。非常勤講師組合はインストラクターを守るため、届け出ていない就業規程を適用した労働基準法違反の疑いで、早稲田大学と鎌田総長らを新宿労働基準監督署に刑事告訴・告発した。

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