米・中・露「三大帝国の暴走」と埋もれゆくニッポンの命運

国際政治を知り尽くす三人が徹底討論
渡部恒雄・近藤大介・小泉悠

近藤 慎重ですね。

小泉 だからすでにNATOに入ってしまった東欧諸国も、旧ソ連圏ほどではないにしてもロシアの影響力は及んでいるわけです。そういうふうに2~3段階ぐらいのグラデーションで、ロシアは自国の影響力というものを考えているのだと思います。

その点、トランプは選挙期間中から「ウクライナなんかドイツに任せとけ」と言っていましたから、彼の外交姿勢にロシアが大いに期待するのは当然です。この男ならば米軍をバルト三国に大規模常駐させて、ロシアと対抗しようとすることはあるまいし、NATO拡大を図ってくることもあるまいと考えている。

日本は主権国家ではない?

渡部 先ほど、ロシアが国境をグラデーションで考えているという話がありましたが、ウェストファリア条約以降に確立された国民国家(ネイションステート)という概念は、ロシアと中国には当てはまらない、という見方が定着しつつありますよね。

両国では国境であるとか国家の概念が伝統的な国民国家におけるそれと違う。だから南シナ海でも問題が起こる。

近藤 そうですね。

渡部 中国とロシアはその国家観を他国、とくにアメリカにも認めさせたいわけだけど、オバマとかヒラリー・クリントンが相手だったら、そんなのは絶対に認めてくれない。でもトランプは案外認めるかもしれない。

 

おそらくトランプの考える外交って、ボス政治的なディールでしょう。各地にひとりずつボスがいて、その地域を管轄している。地域同士の揉め事は、ボス同士が「こっちはお前の縄張りに手を出さないからお前も出すなよ」と手打ちするイメージ。そしてこれって、実は習近平が提唱している「米中の新型の大国関係」そのものでもありますよね?

近藤 まさにそうです。

小泉 おそらく西側と中露で決定的に認識が異なっているのは、国境線以上に、「主権」の概念そのものじゃないかと思うんです。

プーチンはしょっちゅう主権、主権って言うんですけど、どうもわれわれとは違う意味で使っている。「自分の国のことを、自分たちで完全に決められること」をもって主権と言っているようなんです。

どういうことかというと、いま世界には193の国連加盟国がありますけど、われわれの一般的な理解だと、これらの国はすべて平等な主権を持っていますよね? ところがロシアに言わせれば、他の大国に依存している国は「半主権国家」なんですよ。だからロシア的な意味での主権国家って、世界に10ヵ国ぐらいしかないんです。

2017年7月7、8日ドイツ・ハンブルクで開催されたG20サミット(Photo by gettyimgaes)

近藤 その定義だと、日本は主権国家とは言えないのでは?

小泉 ええ。だから訪日前のインタビューでプーチンは、「日本はアメリカと同盟国だろ? 同盟上の義務を負っているじゃないか。だから……」という言い方をしているんですけど、これは要するに「お前らは安全保障の問題を自分で決められないじゃないか」と指摘しているわけです。

その立場から言えば日本なんか典型的な「半主権国家」ですし、旧ソ連諸国もそうです。だからロシアの学者たちは、「ウクライナにはどのぐらい主権が認められるか」みたいなとんでもない議論までしているわけですけど、彼らからするとそれはおかしくないんです。

さらに言えば、公式に認められた国土面積だけでも、ロシアは1700万平方キロメートルもある。冥王星ぐらいあるんですよ。

近藤 あの巨大な中国の、さらに1.8倍ですもんね。

小泉 そこにアジア系人種もいれば、白人も、肌が少し浅黒い人だっている。宗教だってロシア正教だけでなく仏教徒70万人に加えて、ムスリムも千数百万人ぐらいいる。

渡部 1つの星を治めるような話。

小泉 そういう国だから、我々の知っているような「優しい」民主主義を持ち込まれることへの指導者たちの懸念は当然強くて、国家をバラバラにしてしまう危険なものだと思っているわけですよね。

実際、ソ連は中途半端な民主化によって崩壊プロセスが却って加速してしまいましたし、90年代にはロシアも崩壊の危険にさらされていた。

近藤 プーチン大統領みたいな秘密警察官僚出身の政治家ならなおさらでしょうね。

小泉 寛容さが云々というよりは、国家というのは上からがっちり国民を監視しているのが当然、という考え方なんだと思います。

そこで「みんなが意見を言うことは自由だし、国家指導者はそれらを一応聞くけど、国家が一旦決めたことに逆らうのは許さない」というところに落ち着く。これがプーチンのブレーンであったウラジスラフ・スルコフが考え出した「主権民主主義」です。

ここでも「主権」が出てくるわけですけど、こういう政治体制のせいで西側からは、「お前たちは非民主的でけしからん」「人権侵害をやめろ」と言われ続けてきた。それはそのとおりなんですけど、でもロシアの指導者にはそうは見えていない。

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