「選手を絶対に叱らない」野球指導者が教える「勝利とは何か」

やっぱり、暴力は答えではなかった
元永 知宏 プロフィール

日本では、指導者が正しいことを教え、選手がそれを黙って実行する。反論は許されない。少しずつ変わってきているが、選手を「勝つための道具」と考える指導者はたくさんいる。昔の高校野球はそうだった。指導者が絶対で、選手は従うものだという考え方が圧倒的だった。そこに選手に対するリスペクトは少しも存在しなかった。

「指導者と選手は対等です。どっちがえらいわけではない。指導者がいるのは、選手が最大限のパフォーマンスを発揮するため。それが、5年後かも10年後かもしれなくても。

もちろん、早く成長してくれればそれにこしたことはありませんが、『結果が出るのはずっと先』だと指導者は心得ています。だから、焦っても仕方がない。指導者のそんな考えを聞いて、なるほどと思いました」

 

8割は失敗してもいい

野球という競技は、どれだけ完璧を求めても失敗がつきものだ。投手は毎日のようにストライクゾーンに投げる練習をしているが、すべての球がベースの上を通過するわけではない。一日千回以上バットを振っても、次の日にヒットを打てるかどうかはわからない。野球は失敗するスポーツだとも言える。

「16歳から18歳の世代だったら、打率2割でもいいと言われています。失敗の多いスポーツだからこそ、どういう気持ちで打席に立つのか、マウンドに上がるのかが大事なのです。

選手が『失敗したらどうしよう』『またうまくいかないのでは?』と考えるようでは、指導者失格。だから、ドミニカの指導者は『今度は絶対に打てる』と思えるように、前向きに試合に臨めるように、選手に声をかけ、接するのです」

打者ならば、8割失敗してもいい。そんな考えがあるからこそ、指導者は選手を否定する言葉は絶対に口にしないのだという。

「『だからダメなんだ』とか、『こんなこともできないのか』とか、『二度と失敗するなよ』などとは言いません。『失敗したら外す』という言葉も。たとえ三振してダグアウトに戻ってきても、きちんとバットを振っていたら『いまのスイングはいいぞ、次の打席も同じような気持ちでボールに向かっていこう。結果なんか気にする必要はない』と言います。ずっとそれの繰り返し。

もちろん、いいバッティングをしたときには『グッジョブ!』『次も大丈夫だ』と声をかける。きちんと選手を観察したうえで、『君のここがいいよ』と具体的に褒めます。どうしてもうまくいかないときには『こんな練習をしてみたらどうだ?』と言う」

打撃には失敗がつきものだが、守備はそうはいかないだろう。捕れる打球をきちんと処理しなければ試合は前に進まない。

「守備のときにでも同じです。『自分のところに飛んできたら嫌だな』『失敗するかも』と考えて、うまくプレイできるでしょうか。いい結果を残すためには前向きでいることが大事です。『自分のところに飛んでこい』と思っているときのほうが、いい結果が出るはずです。

『ミスを恐れないこと』を教えるのが指導者の仕事かもしれません。だから、ミスをした選手を叱ることはナンセンスだと彼らは考えています。野球は失敗の多いスポーツだからこそ、丁寧に繰り返し、そういうアプローチをするのです」