「選手を絶対に叱らない」野球指導者が教える「勝利とは何か」

やっぱり、暴力は答えではなかった
元永 知宏

ドミニカ共和国の野球指導法の調査・研究をしながら、プロ野球選手のサポート業務などを行っている阪長友仁は、侍ジャパンの四番打者に成長した筒香嘉智がドミニカのウインターリーグに参加した際には、現地コーディネーターもつとめた。

 

その阪長が言う。

「指導者を主体とする指導と厳しすぎる上下関係が日本の野球の問題点だと思います。ラテンアメリカの野球では、こうしたことはゼロではないかもしれませんが、どちらも限りなくゼロに近い。宗教上の理由、社会のモラルも影響していますが、野球選手の育成システムが日本とは違うから。彼らの最終目標はメジャーリーグでプレイすること。25歳になったとき、メジャーリーガーになっていたいと誰もが考えています」

2000年のシーズン中、ダグアウトでのちのトランプ大統領と話すサミー・ソーサ(Photo by gettyimages)

指導者は目先の勝利を追うのではなく、育成に主眼を置いている。試合で経験を積むことは大切だが、勝利自体に大きな意味はない。あくまでも彼らの目標は、25歳になったときにメジャーリーグで活躍できる可能性を持つ選手を育てることだからだ。

「技術や勝ち方をガンガン教え込んでも、スカウトの目にとまるとは限りません。伸びしろがないと判断されればチャンスは与えられない。だから、ドミニカの指導者は『25歳のメジャーリーガー』から逆算して、指導しています。どれだけ可能性を伸ばすかを考えていますね。

日本の高校生と同じ16歳〜18歳の選手たちを指導するドミニカの指導者にいろいろと勉強させてもらっていますが、僕が見た限り、試合中も練習中も声を荒げる人はひとりもいません。もちろん、選手はミスもしますし、消極的に思えるプレイもします。

それでも、しかりつけることはなく、じっと観察をしています。ミスの前後を、しっかりと見ているのです。試合や練習の翌日、選手が落ち着いたところで冷静に話をします。試合に勝つことが最重要ではないので、時間をかけて選手の成長をサポートしているようです。それがこの国共通の指導法ですね」

本当に「試合に勝つ」のが目的か?

日本の高校野球では、監督がプレイを止めて、選手を立たせたままで怒鳴ることがよくあるが、そんなシーンは皆無だ。日本には「鉄は熱いうちに打て」ということわざがある。しかし、ドミニカの野球指導者にはその考え方はない。

「僕も指導者に『どうして怒らないの?』と聞いたことがあります。『どうしてできないんだ? とか、なぜまた同じことを! と心のなかでは思う。ただ、その年代の選手は経験が足りないからミスはするものだ』と言います。彼らが選手に対してすることは、前向きにプレイできる状況をつくること。そのためにどうすればいいのか 、選手とどう接すればいいのかを考えています」

しかりつけたり、怒鳴ったりしたら、彼らとのコミュニケーションが難しくなってしまう。ドミニカの指導者にライセンスはないが、メジャーリーグの考え方の影響を強く受けており、過剰な指導を行うことはない。

「彼らはよく『いまはよくても、先で伸びない』『あまり厳しくしすぎると野球が嫌いになってしまう』『教えすぎると、チャレンジする心がなくなってしまう』と言います。だから、言いたいことがあっても、指導者はグッと我慢をしているのではないでしょうか」