小林麻央報道「可哀想」と括りたがる人は自分の首を絞めている

人間を本当に苦しめるものは?
武田 砂鉄 プロフィール

本書の冒頭に、邑久光明園名誉園長・畑野研太郎の文章が収録されているが、ポーランドの詩人、チェスワフ・ミウォシュの詩から引いた「人間の本当の敵は一般論というものです」が刺さる。

病と民族という二つの差別を背負った著者、その「徹底した低みからの声」が、世の中が規定する「一般論」に苦しめられてきた史実を静かに知らせる。

今井信吾『宿題の絵日記帳』は、高度難聴の娘が聾話学校で先生と会話するために宿題として出された絵日記を、洋画家である父が4年間にわたって描いていたもの。30年近くの時を経て刊行されたが、編集作業に加わったのは、大人になった二人の娘たちだった。

宿題の絵日記帳

ある日の日記はこう。

「おふろからあがって、お姉ちゃまとおすもうさんごっこをする。パパにタオルをギュッとまいてもらうのが、いつもたのしみ。」

二人姉妹のはしゃぐ声が聞こえてくるようなイラスト。独自の読唇術を身につけた妹の麗さん。小学生の頃、テレビに映る長嶋茂雄監督が「ヤバイヨ、ヤバイヨ!」とつぶやいたのを読み取ると、次の瞬間、ピッチャーはホームランを打たれた。

 

絵日記を振り返りつつ、姉の香月さんは、この絵日記を通じて、妹のように、耳が不自由でも手話を使わず声を出して会話ができるひとがいるということを伝えたかった、と書く。

麗さんは、「音が無いことを悲観的に捉えているわけではない」「音がない世界で見る満開の桜も美しい」と記す。日々の記録がどこまでも温かい。二人の体温を感知しながら、そのまま言葉とイラストに落とし込んでいく。ゆっくりと積もる毎日を追体験する。

この三冊に共通することとは何か。深刻さのバロメーターで人を判断するべきではない、という当たり前のことではないか。間借りした「一般論」が人を苦しめる。

「病気になったことが私の人生を代表する出来事ではない」、当人が言い遺したこの視座を、「一般論」が奪ってはいけない。

週刊現代』2017年7月22・29日号より