# AD special

男はなぜウイスキーを4000本も集め、そして手放したのか

タリスカー・ゴールデンアワー第4回(前編)

シマジ: ところで、岸本さんはどうしてレアなモルトを4000本も集めておきながら、バーのオープンを断念してしまったんですか?

岸本: ぼくは主に1960年代、70年代の、自分が飲んで美味いと思うウイスキーを集めていました。若い人たちにリーズナブルな値段で提供して「ウイスキーってこんなに美味しいんだよ」と教えてあげたかったんです。ところが親父が突然倒れてしまい、夢破れてしまったのです。

親父は元々、アメリカ軍関係の通訳からスタートした人で、年金とか保険とかにはまったく入っていなかったんですね。83歳からは認知症がはじまってしまいまして、85歳で有料老人ホームに入れたんですが、そのときだって、施設に入るのに、1300万円もかかったんですよ。

その後、肺炎になって病院に入院すると、差額ベッドが発生する病室しか空いていなくて、2人部屋でしたけど、毎日2万円くらいかかりました。親父の場合、医療費が全額負担なんです。それで1年間だけ病院代を待ってもらったことがあるんです。

親父が亡くなるまで丸々8年間面倒をみました。その膨大な治療費や入院費を工面するために、コツコツ集めた4000本のウイスキーを、泣く泣く手放すしかありませんでした。結局、買った値段以下で売ってしまいました。

シマジ: 岸本さんは希にみる孝行息子ですね。自分の夢を捨ててまで、お父様の面倒をみたんですか。

岸本: 親はちゃんとぼくを育ててくれましたから、ささやかな恩返しです。でも、わたしが集めた60年代、70年代のモルトが有名なバーの棚にあるのをみつけると、懐かしくなりますね。

シマジ: 古いタリスカーも沢山持っていたんでしょうね。

岸本: はい。タリスカーは、25年と30年を持っていました。スコットランドのバーで飲んだこともあります。タリスカーはやたらと品がいいんで、スイスイいけちゃうんですよ。それって困りますよね。

シマジ: マイケル・ジャクソンは2001年瓶詰めのタリスカー25年を、「色:ピーチのよう、黄褐色。香り:暖かい。ミネラルのよう。かすかに硫黄。ボディ:非常にリッチ。味:ナッツのよう、かすかにアーティチョークをともなう。わずかに塩。やがて挽いたばかりの胡椒の爆発。フィニッシュ:火山のよう。鳴り響く。点数92」と評価していますね。

岸本: シマジさん、そんなに煽らないでください。飲みたくなるじゃありませんか。ぼくはすでに年金生活者なんですからね。

シマジ: ちょうど岸本さんがモルト収集を止めたころでしょうか、タリスカー蒸留所から立派な舟の木箱に入った34年ものが発売されました。一本一本に、その当時蒸留所の所長だったマークのサインが入っているんですが、それをわたしが1本だけ持っています。近々、岸本さんをサロン・ド・シマジ本店にご招待しますから、是非味わってください。今日、岸本さんの親孝行のお話に感動したお礼です。

岸本: 喜んで! いつでも万難を排して伺います。

ボブ: あの舟の形をした箱の中にはグラスが2つ収納されていましたよね。ぼくも招待してくださいよ。

シマジ: しかたない、毎月アシスタントを務めてくれていることだし、“千葉在住のおっさん”も招待しましょう。

ヒノ: ぼくのことも忘れないでください。裏方仕事も大変なんですよ。

立木: シマジ、おれのことも忘れたら怒るよ。

シマジ: それならいっそ、この続きをサロン・ド・シマジ本店でやりましょうか。すぐ近くですし。

立木: やめてくれ! あそこは狭すぎて、この人数では酸素が足りない。老体に悪いよ。

〈後編につづく〉

岸本 泰(きしもと・やすし)
1949年、岡山市生まれ。72年、東京経済大学経済学部卒業後、大倉商事に入社。89~93年まで英国大倉(London)に転勤し、管理本部責任者を務める。油・空圧製品のグローバルメーカー、Parker Hanninfin社日本法人の管理本部長、米Usana社日本法人の管理部長を経て、2005年に退職。晴れて自由人となり、シングルモルトに淫する日々を送っている
島地勝彦(しまじ・かつひこ)
1941年、東京都生まれ。青山学院大学卒業後、集英社に入社。『週刊プレイボーイ』『PLAYBOY』『Bart』の編集長を歴任した。柴田錬三郎、今東光、開高健などの人生相談を担当し、週刊プレイボーイを100万部雑誌に育て上げた名物編集長として知られる。広告担当取締役、集英社インターナショナル代表取締役を経て、2008年11月退任。現在は、コラムニスト兼バーマンとして活躍中。 『甘い生活』『乗り移り人生相談』『知る悲しみ』(いずれも講談社)、『バーカウンターは人生の勉強机である』『蘇生版 水の上を歩く? 酒場でジョーク十番勝負』(CCCメディアハウス)、『お洒落極道』(小学館)など著書多数。
ロバート・ストックウェル(通称ボブ)
MHDシングルモルト アンバサダー/ウイスキー文化研究所認定ウィスキーエキスパート。約10年間にわたりディアジオ社、グレンモーレンジィ社、他社にて、醸造から蒸留、熟成、比較テイスティングなど、シングルモルトの製法の全てを取得したスペシャリスト。4ヵ所のモルトウイスキー蒸留所で働いた経験を活かし、日本全国でシングルモルトの魅力を面白く、分かりやすく解説するセミナーを実施して活躍しています。