74年前の米軍の空爆戦略から日本人が学ぶべき「急所を見抜く力」

現役防衛技官が語る第二次大戦の教訓
藤田 元信 プロフィール

急所をずばり見抜いたアメリカ

アメリカ軍によるドイツ本土爆撃は、きわめて困難な任務でした。のちに作られた映画『頭上の敵機』『メンフィス・ベル』などの影響もあり、つい、危険を顧みぬ兵士たちの活躍に目を奪われがちです。

ただ、技術の観点からあらためて見てみると、アメリカ軍は兵士を危険にさらす無謀な空爆を続けたわけではなく、ドイツの軍需産業のサプライチェーンを破壊するために、きわめて戦略的な爆撃を行ったことがわかります。

なかでも、シュヴァインフルトへの爆撃は、文字通り“アキレス腱”を射抜く一撃だったと総括していいでしょう。

無敵を誇ったギリシャ神話の英雄アキレウスが、アキレス腱を射られて絶命したように、ドイツ軍の活動を支える産業基盤は、戦略爆撃により深刻なダメージを受け、その後の全軍降伏へとつながっていったのです。

アキレスの死腱を射られて命を落とした英雄アキレス(ルーベンス《アキレスの死》) photo by gettyimages

74年前の戦いから、アメリカ軍の勝因を分析すると、以下の2つに集約されると考えられます。

(1)ドイツの軍需産業のサプライチェーン構造を分析し、どこに弱点があるか見抜いていたこと
(2)特定の工場群を破壊できる手段(B-17F重爆撃機、訓練された兵と組織)を揃えていたこと

アメリカ軍によるドイツ本土爆撃は、70年以上前の、しかも外国の事例であり、現代の我々には関係もない話と思われるかもしれません。

しかし、現代の日本の製造業のサプライチェーンも、当時のドイツの軍需産業と同じく、特定の企業に依存したダイヤモンド構造であることは、先に述べたとおりです。リスク管理の観点からは、代替手段がなく、脆弱な構造のままなのです。

 

現代の企業買収にも通ずる

サプライチェーンの急所を破壊されることが、産業の崩壊、ひいては国家の崩壊につながることがあるということを、私たちはドイツ軍の例から肝に銘じておく必要があります。

ちなみに、サプライチェーンの急所を破壊される原因は、戦争や災害だけではありません。現代の文脈で言えば、競合企業による企業買収も、サプライチェーン全体を揺るがす深刻な事態に発展する可能性があります

少し古い情報になりますが、経済産業省が行った「我が国製造業のおける技術流出問題に関する実態調査」(2006年12月)によれば、調査対象となった日本企業の1割以上が、「中長期的な技術経営戦略にも影響を与えうる、重要機微技術を有する他企業・事業部門の買収」事例が過去に発生した、と回答しています。

他社では代替できない企業が、海外企業による買収によって脱落することで、国内のサプライチェーンが深刻な影響を受ける可能性を示唆するものではないでしょうか。

日本には、他で代替できない、優れた技術を持つ中小企業が多数存在すると言われています。知名度は低くても、世界一の企業も少なくありません。いまこそ、アメリカ軍のドイツ本土爆撃から学び、足下のサプライチェーンを総点検すべき時期ではないでしょうか。

そして逆に、厳しい競争の世界を勝ち抜くためには、徹底的な情報収集と分析により、代替不可能な優れた技術を持つ企業や人材を探し出すことが、効率的かつ効果的な戦略の一つであると言えるでしょう。

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