74年前の米軍の空爆戦略から日本人が学ぶべき「急所を見抜く力」

現役防衛技官が語る第二次大戦の教訓
藤田 元信 プロフィール

ドイツ軍需産業の“アキレス腱”

話は変わりますが、現代における究極の工業製品とも言える兵器は、多種多様な部品から成り立っています。たとえば、現代の戦闘機の部品点数は約30万点にもなり(ちなみに自動車は2~3万点)、その供給には大中小合わせて約1,200社もの企業が関わっていると言われます。

戦闘機と戦車は、いずれも数多くの部品から成る兵器ですが、その外観はまったく似ていません。ただし、どちらも高速回転を伴う動力源(エンジン)を搭載している点は同じです。

エンジンには、ボールベアリング(玉軸受)という、高速回転する軸とそれを支える軸受の摩擦を減らす部品が欠かせません。品質のよいボールベアリングの製造は、どこでもできるものではなく、高度な生産設備と技能が不可欠。精密機械工業の要(かなめ)とも言える重要な部品なのです。

ボールベアリングボールベアリング(玉軸受)とは、軸受の可動部品間を、玉を使って分離する転がり軸受の一種。高速回転を行う機械になくてはならない部品であり、精密機械工業を支える“縁の下の力持ち”とも言える。 photo by iStock

さて、ドイツ・バイエルン州の北部に、シュヴァインフルトという人口5万人ほどの地方都市があります。ここはかつて、ボールベアリング工場が集中する産業集積地として知られていました。

ここで製造されたボールベアリングは、ドイツ全土のボールベアリング生産量の約半分を占め、ドイツ国内のあらゆる軍需産業を支えていました。そして、ドイツの軍需産業のサプライチェーンは、現代の日本の製造業と同じ「ダイヤモンド構造」になっていました。

そう、もうおわかりでしょう。シュヴァインフルトのボールベアリング工場群は、当時、ドイツ軍需産業の“アキレス腱”だったのです。

 

地方都市をピンポイントで狙う

第二次世界大戦のさなか、1942年に入ってドイツとソ連の戦線が膠着状態を迎えるころ、アメリカ陸軍航空隊は、ドイツら枢軸国への反攻を準備するため、続々とイギリスに展開を始めました。

アメリカ陸軍航空隊の主力装備は、精密爆撃を可能とするノルデン爆撃照準器を備え、重武装のままに高速移動を実現したB-17F重爆撃機でした。

問題は「どこを爆撃するか」です。

アメリカ軍はこのとき、ドイツへの本格的な戦略爆撃を始めるにあたり、優先的に破壊すべき目標として、ボールベアリング工場が集中するシュヴァインフルトを選んだのでした。

アメリカ軍の狙いは、疑いようもなく、ドイツ軍需産業のサプライチェーンを破壊し、戦争継続を困難にさせることだったのです。

アメリカ陸軍B-17F重爆撃機シュヴァインフルトを爆撃するアメリカ陸軍のB-17F重爆撃機(1943年8月17日の撮影、public domain)

ボールベアリング工場群への爆撃は、1943年8月17日に始まりました。その月に投下された爆弾の量は約12,000トン。

しかし、護衛戦闘機のない長距離の爆撃行程だったことに加え、迎撃するドイツ空軍の激しい抵抗もあり、アメリカ軍の爆撃機部隊は、出撃した機体の25%を失うという大損害を受けました。

それだけの反撃を受けながらも、工場群の破壊には成功しました。その翌月、シュヴァインフルトのボールベアリング生産量は、爆撃前の35%まで低下したと言われています。その後も、シュヴァインフルトはくり返し爆撃を受け、第二次世界大戦終結までにその生産量と品質を回復することはできませんでした。

ボールベアリングの生産減少と品質低下は、兵器の生産や補給、修理に必要な部品の確保に、深刻な影響を与えました。その結果、ドイツ軍は兵器の稼働率の低下に苦しんだと言われています。

アメリカ軍が爆撃目標としたのは、もちろんボールベアリング工場だけではありません。航空機工場、潜水艦基地、さらには石油関連施設、合成ゴム工場なども空爆の対象になりました。合成ゴム工場が集中的な被害を受けたことで、ドイツ軍が戦中に設計した新兵器は、ゴムの消費量を抑えたものにならざるをえませんでした。

いずれも、ドイツ軍の“アキレス腱"を見抜いたうえで、アメリカ軍が採用した戦略が功を奏したわけです。