ハワイで「べーシック・インカム」の導入が本気で議論されている事情

どうやら、本当に苦しいようです
山田 敏弘 プロフィール

そのような状況下で、ハワイ州知事は2015年、深刻なホームレスの増加に対して非常事態宣言を発動している。そしてホームレスに向けたシェルター建設など早急な対策を指示したのだが、当時のホームレスの数が10万人中465人、それが現在は10万人中505人になったことを考えると、事態は悪化していることになる。

市民団体などの精力的なボランティア活動などもあって、2017年5月には過去8年で初めてホームレスの数が減少したと報じられているが、それも若干、という程度で、ベーシック・インカムが必要になる可能性は相変わらず高い。

一方で、ベーシック・インカムの導入が議論される理由は、生活コストの高さやホームレスの問題だけではない。今後の州内のビジネス展望が明るくないという予測も大きく影響しているのだ。そもそも、ハワイはビジネスのコストや労働力、インフラといった項目は、全米で軒並み最低クラスであると評価されている。そんな状態のハワイが、さらなる不況に襲われるという見方が出ているのだ。

実験は各所で行われているが…

6月にハワイの州議会を通過したべーシック・インカム作業部会。その設立を決めた法案には、その理由がこう記されている。

「アメリカは世界でも最も裕福な国であるにもかかわらず、一部の高額所得者と中流・下流層との間にある経済的な不平等さが格差を広げるなか、ハワイ州の多くの家族、個人、そしてビジネスが、生活コストの増加に合わせていくのに、もがき苦しんでいる。しかも中流・下流層の全体的な収入もここ数十年で減少している」

 

そんな状況で、さらに追い打ちをかけるように、新たなテクノロジーによる雇用破壊という要素が加わることになる。各自動車企業がしのぎを削っている自動運転テクノロジーや、スーパーマーケットなどで導入が進む自動支払いシステム、通販などのEコマース、医療検査、銀行送金や支払いなどでは、すでに人の手が必要でなくなりつつあることはご承じの通り。

特にサービス業に依存しているハワイのような州では、こうした革新的なテクノロジーの到来で、何十万人もの仕事が奪われると指摘する。しかも、「3Dプリンターの値段が過去10年で1万5000ドルから500ドル以下になった」ように、それが瞬く間に現実になると警鐘を鳴らしているのだ。ハワイ州特有の事情から、その対策として、ベーシック・インカムが必要になる、というのだ。

さて、ベーシック・インカムのアイデアは特に新しいものではなく、米国でも古くはリチャード・ニクソン大統領が68年から3年間にわたり、ニュージャージー州とペンシルベニア州の1300世帯で実施したことがある。だが結局は導入するには至らなかった。導入への慎重派は、財源もさることながら、市民が堕落することを反対理由として指摘している。