ハリウッドの一流が、礼儀作法に一つもこだわらない理由

たった二つの価値観だけあればいい
寺田 悠馬 プロフィール

この連載では以前、筆者が失敗した株式投資の案件について書く機会があった。対象企業の主要製造拠点である東南アジアの工場に通い、工場長に話を聞き、調査と分析を重ねて挑んだ案件だったが、そんな努力とは無縁のところで法改正が行われ、結果株価は急落し、筆者は損失を計上した。

この時、法改正のニュースにうまく反応できなかったのは、調査と分析に時間を費やすうちに、それまでの努力や自身のプライドといった、投資判断に到るまでの経緯に対して、筆者が不健全な執着を持ち始めていたからだ。

そんな自尊心など潔く切り捨てて、「儲かるのか、儲からないのか」という、唯一重要であるはずの判断基準にこだわりきることができなかったため、新しい情報によって、昨日までとはすっかり変わった世界の景色と、開かれた心で貪欲に戯れることに失敗したのだ。

ハリウッドにも、投資家に似た精神状態の人々がいるのかもしれない。

今回、筆者がロサンゼルスに滞在した2週間のうちに、DCコミックスの最新作『ワンダーウーマン』が6月2日に、続いてトム・クルーズ主演の『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』が6月9日に封切られた。ともに百数十億円の予算を費やした大作として、会う人誰もが話題にしていた作品だ。

だが蓋を開けてみると、最初の週末に約115億円を稼ぎ出した『ワンダーウーマン』が、翌週末も約64億を売り上げたため、対する『ザ・マミー〜』の初速は約36億円に終わった。

週が明けた6月12日月曜日、プロデューサーたちの『ザ・マミー〜』に対する言いようは酷いものだった。

主演がトム・クルーズなのだから、これから国外の市場で充分稼げるように思えるのだが、筆者が会話したプロデューサーたちは、早々に『ザ・マミー〜』を失敗作として退けてしまう。制作に携わった人々の努力や感傷に対するシンパシーはなく、会話はすぐに、翌週以降に公開が予定される『カーズ3』や『トランスフォーマー ザ・ラストナイト』へと移行するのだった。

〔PHOTO〕iStock

ハリウッド(=Hollywood)という地名が、本来の「ひいらぎ(=Holly)の森」ではなく、「聖なる(=Holy)森」と誤読され、「聖林(ハリウッド)」と漢字表記されることがあるのは、じつに皮肉な話である。

この街に来ると、神聖なものなど何一つ見当たらない。いや正確には、自分が神聖だと信じ込み、胎児のように守ってきた自尊心など、あっさり破壊してくれる爆発力が、ハリウッドにはある。

潔く、あくまでも潔く、面白いこと、儲かることにこだわり続けるからこそ、この街で行われるミーティングは、つねに何らかの感情を喚起してくれるのだろう。そしてもしかしたら、今まで根拠なくしがみついていた、貧弱な自尊心を切り捨てることができた時、何か本当に神聖なものだけが、そこには残るのかもしれない。